農山漁村地域と起業者をつなぐマッチングオンラインイベント報告

開催報告

 

INACOMEでは、「農山漁村地域と起業者とをつなぐマッチングオンラインイベント」を開催しました。
第1部の「農山漁村地域で起業するために必要なこと」をテーマにしたトークセッションに続き、
第2部では、全国5地域の自治体職員から起業者に向けたプレゼンテーションが行われました。
そして、イベントを締めくくる第3部ではオンライン交流会を実施。
約80名の参加者同士が出会い、互いに刺激をもらい、そして事業展開の可能性を広げる一日となりました。

イベントの映像はINACOME会員ページ内の新着コンテンツからご覧いただけます。

会員登録はこちら(会費無料):https://inacome.jp/registration

 

【全体概要】

◎日時・場所 2020年12月19日(土)13:30〜

◎プログラム

 

第1部 トークセッション「農山漁村地域で起業するために必要なこと」

登壇者 プロフィール(リンク)

◯こゆ財団代表理事 齋藤潤一氏

◯昨年INACOMEビジネスコンテスト本選大会出場者
SNOW SAFARI(株)代表取締役 奥田将大氏(新潟県湯沢町)

◯昨年INACOMEビジネスコンテスト本選大会出場者

マメムギモリノナカ代表 山下久美氏(宮城県丸森町)

◯ファシリテーター:日本大学 生物資源科学部教授 小谷幸司氏

 

第2部 農山漁村地域からのプレゼンテーション(5地域6テーマ)

参加自治体とテーマ(プレゼンテーション資料はこちら:https://inacome.jp/matching

(1)北海道中頓別町 「狩りができる起業家になってみませんか? 〜有害鳥獣(エゾシカ)駆除の担い手確保、地域資源と駆除した有害鳥獣を活用したビジネスの展開〜」

(2)新潟県胎内市 「棚田を保全する人材の確保」

(3)静岡県静岡市 「茶園農作業支援、観光農園の展開等による荒廃農地の活用」

(4)静岡県静岡市② 「地域資源を活かした新しい産業の創出(農産物の高付加価値化、交流・体験ビジネスの創出)」

(5)岡山県倉敷市 「ジャンボタニシに大集中! 〜マイナスからプラスへの挑戦〜」

(6)高知県北川村 「日本で一番若者がチャレンジできる村にしたい! 〜地域資源を活かした新たな事業の創出〜」

 

第3部 オンライン交流会

Zoomブレイクアウトルームにて参加自治体ごとに開催

【当日の模様】

第1部 トークセッション「農山漁村地域で起業するために必要なこと」

なぜ今の地域を選んだか

トークセッションは「なぜ今の地域を選んだか」というファシリテーター小谷氏の質問からスタート。宮城県丸森町で起業した山下氏は「自然環境とのかかわりの中での健康を提供したかった。豊かな自然があり、3年間のベーシックインカムが得られるなど行政のサポートが揃っていたのが決め手」と話してくれました。
豪雪地の湯沢町で着地型観光などに取り組む奥田氏は「この地域は人が暮らす場所としては世界一雪が多いと言われている。雪は決してやっかいものでなく、世界に通用する地域資源。雪国が育んだ風土や文化の存在もビジネスにとり魅力だった」といいます。
宮崎県新富町に拠点を置く齋藤氏は「ネットやITを駆使してビジネスができるようになっている今、土地というよりも、“この人と一緒に仕事をしたい”など、ワクワクするような人との出会いを重視」と、それぞれが地域の選定理由を披露してくれました。

地域での人的ネットワークについて

トークセッションでは、地域における人間関係の考え方も一様ではないことが明らかに。「生活や仕事をする上では地域の人たちと助け合う感覚が必要になる。誰一人欠かせない知識やスキルを持っている」(奥田氏)、「都会では自分の興味や関心領域の範囲で人とつきあっていたが、地域ではビジネス的なギブアンドテイクの関係だけでなく、年齢も含めて多様な人たちとのつながりが大事になる」(山下氏)と、地域コミュニティーと関わることの大切さを指摘する意見がありました。
その一方で、「周りの人を無理に巻き込もうとはせず、地域内での人づきあいにもあまり時間をかけない」という齋藤氏は、「その分、ビジネスプラン検討などに時間を使えて快適。起業をめざす人たちには、私のようなタイプでも地域で仕事をすることはできると伝えたい」と自身のスタイルを明かしてくれました。

地域で起業することの課題と醍醐味

地域で起業することについて、齋藤氏は「課題は毎日のようにあるけれど、地域で起業することはサイコーに楽しい。課題は成長の糧で、乗り越えることが充実感にもつながる。好きなこと、やりたいことで起業するのが大事」と参加者にアドバイス。
奥田氏は「仕事は一人ではできないこともある。規模を拡大しようとすると、資金面だけでなく、人的資源が地域には乏しいなど色々な課題が出てくる。でもクオリティ・オブ・ライフは都会より地域の方が高いと思う。暮らしを楽しみながらビジネスに集中できる環境があるのは地域ならでは」と、地域でやっていく秘訣は、その地での生活を楽しむことだといいます。
山下氏は「現地に来てみて、行政が取り組んでいる地域課題を必ずしも住民が共有していないとわかった。地域に飛び込んでみないとわからないことがある。主体性と方向性を自分自身がしっかり持つことが大事」と、現在の心境とあわせてアドバイスしてくれました。

地域で起業するにあたり必要な支援とは

起業に関して期待する支援について話が及ぶと、「変化することに対する地域の共通理解が大事で、例えば町のご意見番になっている重鎮の方への根回しなどに協力してほしい。それから活動拠点をどこにするかという時に、空き家、空き店舗はあるけれど、借りようとしてもオーナーの了解を得るのに時間がかかるなどのタイムラグが生じる。こうしたことへの支援策があるといいのでは」と山下氏。
奥田氏は「INACOMEのビジネスコンテストはそうではないが、大抵のコンテストはスケールやスピード重視で、銀行の関心もそこにある。地域で起業するには、外への情報発信と、起業者が地域に根を張るまでの動き、その両方への支援が必要だと感じる。チャンスは田舎にある。お世辞でなく、起業者と地域をつなぐプラットフォーム、INACOMEの仕組みはいいと思う」と話してくれました。
齋藤氏は「今取り組んでいる農業ロボットをつくるプロジェクトに公的な助成は受けていないが、地域で信頼を集めている行政にはぜひ“通訳”をお願いしたい。“農業者の平均年齢が67歳という社会課題を解決するために、彼は自分で資金を集めて取り組んでいる”などと、そういう通訳をしてくれると、地域での仕事の潤滑油になる」といいます。さらに「農業ビジネスは可能性に満ちている。その拠点は東京でない方がいい」と参加者を勇気づける力強いメッセージをいただきました。
最後は小谷氏が以下のようにトークセッションを締めくくりました。
「これからの日本は間違いなく自立分散型の社会を目指さざるを得ない。各地がそれぞれの地域資源を生かして、規模は小さくても地域内で経済循環していくことが必要で、そうした中では、奥田さん、齋藤さん、山下さんのような人たちの存在がますます重要になってくる。今日はありがとうございました」(小谷氏)

第2部 農山漁村地域からのプレゼンテーション(5地域6テーマ)

1 北海道中頓別町

「狩りができる起業家になってみませんか?
 〜有害鳥獣(エゾシカ)駆除の担い手確保、地域資源と駆除した有害鳥獣を活用したビジネスの展開〜」

道北に位置する人口約1700人の中頓別町。豊かな自然が広がる町ではエゾシカによる酪農被害を抑えるためエゾシカ駆除を推進し、成果を上げていますが、狩猟者の高齢化が進んでおり、2025年には精力的な駆除ができなくなると危機感を募らせています。
狩猟だけで生計をたてることは難しいために担い手の確保が難しいことから、食肉加工やレストラン開業など、地域資源を活用したビジネスと掛け合わせることで、有害鳥獣の駆除を持続可能な取り組みにしたいと考えています。 実はプレゼンテーターも移住者で、中頓別町は移住者にオープンな、子育て世帯にも暮らしやすい制度が整った町だと力説。マッチング後は狩猟免許の取得経費の補助や、商工会、金融機関と連携した起業支援を行うとアピールしてくれました。

2 新潟県胎内市

「棚田を保全する人材の確保」

新潟県胎内市は人口約2万9000人で、チューリップフェスティバルや星まつり、スキー場など観光にも力を入れています。農業は就業者の約10%を占める欠かせない基幹産業の一つですが、農業従事者の高齢化率は80.3%ととても高くなっています。
市では今、魅力的な景観を見せる大切な棚田が危機に瀕しているといいます。農業者の高齢化のほか、田んぼの形がいびつで小さいため機械による効率的な作業ができないこと、高付加価値農業のノウハウが乏しいことを、担い手不足の原因としてあげています。
プレゼンテーションでは、例えば水稲単作からの脱却による高収益化、スマート農業推進、観光との連携など、職業としての農業の魅力向上に資するアイデアを募集。応募者には、2018年に実に93年ぶりに開学した新潟食料農業大学をはじめ、住民や関係機関との橋渡しを市が積極的に行うことなど、継続的なサポートを行います。

3 静岡県静岡市①

「茶園農作業支援、観光農園の展開等による荒廃農地の活用」

静岡県と静岡市が共同で、市内有東木地区での「茶園農作業労務お手伝い参加型ビジネス」と、玉川地区での「荒廃農地の観光農園利用促進型ビジネス」を誘致しています。
両地区は傾斜地でのお茶の生産が中心の中山間地域。山々と茶園、集落が調和した美しい景観を有しています。静岡茶の代表ブランド「本山茶」や世界農業遺産「水わさび伝統栽培」など地域資源が豊富で、広域からの交通利便性にも優れています。
しかし両地区では、農業者の高齢化や人口減少などにより荒廃農地が増加し、良好な茶園景観の維持が困難になりつつあるといいます。
プレゼンテーションでは、「茶園を守る作業を楽しみながら手伝ってくれるようなビジネス」と「農地を観光農園として復活させるようなビジネス」の展開を期待。必要な情報提供、関係者との調整、様々な支援事業活用の提案など、県と市は積極的なサポートを惜しまないと話してくれました。

4 静岡県静岡市②

「地域資源を活かした新しい事業の創出」

静岡市の中山間地域「オクシズ地域」における「農産物の高付加価値化」、「交流・体験ビジネスの創出」の視点での事業展開を起業者に訴えかけています。
国や世界に価値を認められた農業や、景勝地等の地域資源が豊富なオクシズ地域は、厳しい営農条件や茶市場の価格低迷が長引くなど、将来の農業の維持・発展が危ぶまれているといいます。
こうした状況を打開するため、例えば「和紅茶」「茶割(お酒)」などお茶の高付加価値化や、お茶以外の主力農産物であるわさびやみかんを活用したビジネスの新展開を期待。また、内外からの来訪者に向けた「わさび収穫体験」、「美しい茶園やわさび田を巡るウォーキングツアー」などの地域資源を活用した交流・体験ビジネスをイメージしています。県と市は、起業や移住に向けて積極的な支援を行うとアピールしてくれました。

5 岡山県倉敷市

「ジャンボタニシに大集中! 〜マイナスからプラスへの挑戦〜」

約48万人と岡山県第二の人口を抱える倉敷市。市では今、ジャンボタニシによる稲の食害とピンク色の卵による農村景観の悪化が深刻な課題になっているといいます。
このままでは稲作被害による収入減少が農家の生産意欲の低下につながるとともに、担い手もそうした被害のある水田を避けるようになり、その結果、耕作放棄地が増加していくという悪循環に陥ることが懸念されています。
そこで倉敷市では、駆除したジャンボタニシにプラスの価値を生み出せないかと発想を転換。食用、肥料、魚のエサなどのビジネス展開を期待しています。
プレゼンテーションでは、ジャンボタニシの加工技術や事業化に関するネットワークを持つ人の参入を呼びかけ。市はジャンボタニシの捕獲をはじめ、起業支援金や充実した移住サポートを行うと話してくれました。

6 高知県北川村

「日本で一番若者がチャレンジできる村にしたい! 〜地域資源を活かした新たな事業の創出〜」

高知県東部に位置する北川村は「ゆず」の生産が基幹産業で、県内でも指折りの生産量を誇っています。人口は1200人ほどですが、村の面積は約196平方キロと広く、村内には、モネ財団も認める「モネの庭・マルモッタン」、生誕地にちなむ「中岡慎太郎館」、美肌の湯として知られる「北川村温泉・ゆずの宿」などの観光資源があります。
一般社団法人日本の農村を元気にする会の代表理事で、北川村副村長の野見山氏が「日本で一番若者がチャレンジできる村にしたい!」とプレゼンテーションしてくれました。
北川村の課題は「廃業も少ないが、起業件数も圧倒的に少ない」こと。野見山氏は手作業中心のゆず生産の機械化・スマート農業化への取り組みや、地域の若者を集めて活性化協議会を組織化するなど、新しい村おこしに奔走しています。氏は「私たちと一緒に日本一若者が挑戦できる村を創ってみませんか!」と、全国の起業者に熱く呼びかけています。

第3部 オンライン交流会

プレゼンテーションの後、Zoomブレイクアウトルームにて参加自治体の地域ごとにオンライン交流会を開催。和やかな雰囲気の中にも、各地の支援策や、事業に活用できそうな地域資源の詳細を尋ねるなど、真剣に話し合う様子が印象的でした。