農山漁村における課題解決のアイデアを競う「INACOMEビジネスコンテスト」本選大会が2024年1月20日、東京・南青山のPASONA SQUAREで開催されました。第5回目となる本大会には、100件以上の応募の中から一次審査、二次審査を通過した11組が出場しました。
INACOME(イナカム)は農山漁村における多様な地域資源とやる気あふれる人材、そして必要な資金を組み合わせることで、新しい考えや自由な発想を取り入れたビジネスを生み出すことを目的とした、起業促進プラットフォームです。
農山漁村には魅力的な地域資源が豊富にあり、これを活用した多様なビジネスを起こすチャンスにあふれています。 農林水産省では、農林水産物や農林水産業に関わる多様な地域資源を活用し、付加価値を創出することによって、 農山漁村における所得と雇用機会の確保を図る「農山漁村発イノベーション」の推進に取り組んでいます。
その一環で、農山漁村における課題解決のアイデアを競う「INACOMEビジネスコンテスト」を開催し、農山漁村において多様な地域資源を活用した多様な付加価値の創出につながるアイデアや事業計画を広く募集しました。 毎年、本コンテストの登壇者たちは注目を集め、新たなビジネスチャンスを掴み活躍の場を広げています。
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本選では、6名の審査員の他、多くの協賛企業関係者や観覧者を前に、11組の登壇者が発表しました。
初めに、佐藤農林水産省農村振興局農村政策部長より「本選出場者のみなさまにはこの場を今後の事業への発展の場として活用していただきたい」、「本ビジネスコンテストがネットワーク構築や更なる発展に繋がり、全国の農村漁村への波及に繋がることを期待したい」との挨拶がありました。
そしていよいよ、各自5分のプレゼンテーション。事業テーマは「地域資源」×他分野との連携、「地域資源」×関係人口・担い手対策、「地域活性化」×デジタル技術の活用、フリーテーマの4つが設けられています。それぞれの登壇者が、様々な課題と課題解決策、新規性や革新性など、自身のアイデアについて熱い想いを込めてプレゼンを行いました。
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林地残材を発酵させて人も自然も美しくする
片山 裕介(株式会社テーブルカンパニー)
地元林業家と連携して山林管理の課題となっている林地残材や放置林に独自の加工を施し、利活用。電気・ガスを使わず奈良県吉野産ヒノキの自然発酵熱のみを利用した温浴サービス『発酵温浴nifu』を都内中心に9店舗展開する他、使用後のおがくずも土壌改良材、家畜の敷料、コンポスト基材などへ無駄なくアップサイクル。
川の環境を守る漁協DX(デジタル遊漁券)
中谷 優基(株式会社フィッシュパス)
現地の商店でしか購入することのできなかった遊漁券をデジタル化(アプリ化)し、漁場の維持原資である遊漁券の購入機会向上の他、漁協の監視業務を効率化。アプリの位置情報により、釣り人は釣り場の安全情報の受信、漁協は監視やデータを元にした漁場整備の効率化を実現。
サステナブルひまし油事業~エリ蚕から広がるビジネス~
沢井 拓(株式会社ENEOS/株式会社ひまSeeds(仮称))
世界的に需要の高いバイオ系原材料「ひまし油」について、ベトナムで生産しから日本へ輸入するの新たな調達ルートを確立。インドに依存するひまし油の調達性を向上させ、市場の安定に貢献。ひまの葉を養蚕に活用することで、生産コストの低下とサーキュラーエコノミーを実現。
農地を守りアレルギー症の方に喜ばれる「おもち革命」
礒 喜久(株式会社ISOコーポレーション)
業界の常識を破る、米のねばねば成分”アミロペクチン”を活用し低脂肪・低カロリーのグルテンフリーを実現。 余剰米をパウダー化し、洋菓子として製品化して海外輸出をすることで外貨を稼ぎ、中小規模農家の諸問題を解決。
ATENOTE-能登ヒバ楽器プロジェクト
古谷 隆明(フルタニランバー株式会社)
石川県の県木「能登ヒバ(アテ)」を様々な楽器メーカーとタイアップして楽器を製作。自らはブランド楽器の販売ではなく、材料の活用提案を行い、川上の林業~川下のミュージシャンまで、サプライチェーンに関わる者と価値を共有し、人と自然を繋ぐ。
食品廃棄物の再資源化で持続可能な水産養殖業を
橋爪 海(株式会社Booon)
環境負荷の高い食品加工残渣を活用し水産養殖に有用な機能性昆虫ミルワームの生産ユニット開発とミルワームを原料とする飼料を生産。IoTデバイスの最適化でエサ代・電気代・人件費等の生産・管理コストを削減し、より安価かつ安定的な供給を目指す。
「炭化力」で「ハウスを冷やす」
島田 勇巳(有限会社 紋珠 高槻バイオチャーエネルギー研究所)
未利用バイオマス資源や農業残渣等から石炭相当の炭エネルギーを創出する移動可能な独自「密閉式炭化ユニット」 を開発。「炭化力」を熱源にした農業用ハウスの冷暖房の仕組みは燃料コストを大幅に軽減、フルシーズン活用可能で収益性の高いハウスシステムを実現。
野生の情報を民主化する ラクシカ
渡辺 洋平(ディアベリー株式会社)
ジビエ活用で主要な役割を果たす市町村、ハンター、ジビエ施設間の情報共有や資料作成をスマホの簡単操作でDX化。良い捕獲・搬入方法に取り組むハンターへの報酬制度や遭難対策GPS追跡機能、クマの出没情報の即時共有機能等、各プレイヤーの安全性にも繋げる。
「あなたの専属漁師」完全受注漁による持続可能な漁業
富永 邦彦(邦美丸)
その日の注文分しか獲らない国内初の「完全受注漁」。自然界に受注生産を取り入れ、漁業の課題を解消、漁師の所得増大と長時間労働からの解放、食料安全保障の向上、海の豊かさの維持を実現。人にも海にも家族にも優しい働き方で、サステナブルと収益性を両立。
カーボンニュートラルの実現に向けたシロアリ由来の水素生成事業~シロアリ・微生物が日本を救う!~
髙橋 英眞(神戸大学)
シロアリが腸内の微生物を通じてセルロースを分解し水素を生成する能力を活用。未利用木材を用い、再生可能なリソースを利用したシロアリの養殖、効率的な水素抽出技術を組み合せた環境に優しい低コスト水素で、水素の価格高騰問題を解決。
TOKIコネクト -旅に季節のアウトレットを
吉野 貴信・工藤 貴明
エリア別・月別に閑散期を検索できるサービスで、安定した収益を確保したい地域の観光事業者と繁忙期特有の高額な宿泊費用や混雑を避けたい旅行者とをマッチング。「閑散期」に特化することで年間を通じた観光客数と収益の確保、雇用創出を狙う。
※登壇者氏名(敬称略)
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それぞれのプレゼンテーション後に審査員による質疑応答が行われ、審査を経て下記の通り各賞が発表されました。
・最優秀賞
片山 裕介さん(株式会社テーブルカンパニー)/ 林地残材を発酵させて人も自然も美しくする
・優秀賞
中谷 優基さん(株式会社フィッシュパス)/川の環境を守る漁協DX-デジタル遊漁券-
沢井 拓さん(ENEOS株式会社/株式会社ひまSeeds仮称)/サステナブルひまし油事業 〜エリ蚕から広がるビジネス〜
・特別賞
礒 喜久さん (株式会社ISOコーポレーション) /農地を守りアレルギー症の方に喜ばれる 「おもち革命」
古谷 隆明さん (フルタニランバー株式会社) /ATENOTE-能登ヒバ楽器プロジェクト-
橋爪 海さん(株式会社Booon)/食品廃棄物の再資源化で持続可能な水産養殖業を
・協賛企業賞
―NTTアグリテクノロジー賞(2社)
島田 勇⺒さん(有限会社紋珠 高槻バイオチャーエネルギー研究所) /「炭化力」でハウスを冷やす
渡辺 洋平さん(ディアベリ―株式会社) /野生の情報を⺠主化する ラクシカ
―アグリ創研賞(2社)
沢井 拓さん(ENEOS株式会社/株式会社ひまSeeds仮称)/ サステナブルひまし油事業〜エリ蚕から広がるビジネス~
橋爪 海さん(株式会社Booon)/ 食品廃棄物の再資源化で持続可能な⽔産養殖業を
―JTB賞(1社)
中谷 優基さん(株式会社フィッシュパス)/ 川の環境を守る漁協DX-デジタル遊漁券-
―三菱総合研究所賞(3社)
島田 勇巳さん/ 「炭化力」で「ハウスを冷やす」
沢井 拓さん(ENEOS株式会社/株式会社ひまSeeds仮称)/ サステナブルひまし油事業〜エリ蚕から広がるビジネス~
橋爪 海さん(株式会社Booon)/ 食品廃棄物の再資源化で持続可能な⽔産養殖業を
審査員長の大野泰敬さん(株式会社スペックホルダー 代表取締役社長)より、「年々レベルが上がってきていると感じている。日本の置かれている現状は厳しく、生産、流通、小売、それぞれの現場が変わっていかなければ、食産業を守っていくことができない。みなさんのアイデアが日本を変えるきっかけになると思う」と講評。受賞は逃したものの、挑戦を続けた参加者が大きな出資を得て全国展開に至った過去事例を挙げ「受賞の有無に関わらず、諦めずにチャレンジし続けることが重要」と登壇者へ激励をされました。
登壇者全員のプレゼンテーション終了後には、昨年度優秀賞の岩手大学クラフトビール部・佐藤稜さんがオンラインで登壇、現在の取組紹介がありました。これは、審査員から「この場所は応援の空気に溢れている。自然体で、みんなでいいねと言い合える場になれば良い」というコメントがあったように、INACOME卒業生たちが互いに切磋琢磨し、共にイノベーションを起こす仲間として繋がるきっかけの一つとして企画されたものです。オンラインでプレゼンテーションを視聴していた佐藤さんからは「是非、みなさんのアイデアについてもそれぞれ意見交換をしたい」と労いと同志へのメッセージが寄せられました。
審査を担当された審査員の皆様からは、「様々なアイデアがあり、ワクワクしながら審査できた」、「いずれの発表内容もレベルが高く、審査が難航した」、とのお話がありました。 是非、今回登壇されたみなさまの他、全国の農山漁村で課題解決に取り組む方々の活躍を応援していただけますと幸いです。そして、来年度も開催を予定しておりますので、多くの皆さまに奮って当ビジネスコンテストにチャレンジ頂きますよう、よろしくお願い申し上げます。