スーパーマーケットの冷凍食品コーナーで売られているカニ甲羅グラタンは、隠れた定番商品として多くのメーカーがしのぎを削っている。この商品に大胆な変革を採り入れ、革命を起こそうとしているのが、ズワイガニ関連の製品にこだわりを持つ青森県八戸市の宝成食品株式会社だ。ズワイガニのむき身、カニ味噌、寿司用ホッキ貝などで知られている2009 年創業の水産加工会社だが、なんと甲羅まで食べられるカニ甲羅グラタン「かに屋が作った器ごと食べるSDGs なかにグラタン」を開発したのだ。陣頭指揮を取った代表取締役社長・河村隆衛さんは、なぜそこまでして開発に打ち込んだのだろうか。
「カニ身が入ったグラタンといえば器は甲羅。我々の業界では定番として認知されています。弊社でも甲羅を器にしたカニ味噌やカニ身などを展開してきていますが、その甲羅はわざわざ韓国から買っているんですね。実はこの甲羅を集めるのがとても大変でして…」
甲羅は紅ズワイガニのもので、日本では捕獲が禁止されているサイズのため海外から買うしかない。さらに、不漁などを理由に価格は上昇を続けていて、宝成食品で買いはじめたときは1 枚20 円だったものが、いまは50 円近くにまでなっているのだ。最後はゴミとして捨てられてしまうものに50 円。いかに大きな無駄かがわかるだろう。
甲羅の集荷時期は1 〜4 月。宝成食品ではこの時期に1000 万円分を仕入れ、年間を通じてストックしてきたが、中には甲羅を仕入れられずカニ甲羅グラタンを欠品させるメーカーも目に付きはじめた。河村さんは、このピンチをチャンス変えるべく、本物の甲羅に変わるものを発明するという決意をする。宝成食品は大半の同業のように業務筋向けではなく、手間がかかってもスーパーマーケットなどで売られる小分け商品に力を入れ、業界の中で認知されてきた。瓶詰めの海鮮丼の具材「海鮮ばくだん」なども最たる例。消費者に愛される商品開発こそが得意分野であり生命線。だからこそ、スーパーマーケットの定番商品の危機は見逃せなかったのだろう。