【INACOME起業者紹介】宮崎から世界の農業課題にチャレンジ(AGRIST株式会社・高橋慶彦さん)

INACOME

農山漁村の活性化に向けて、地域起業者の交流を促すプラットフォームINACOME(イナカム)。ビジネスモデルからは把握しづらい起業者の想いやビジョンを広く知っていただくために、INACOME参加起業者のインタビュー記事を掲載します。今回は、本年2月のINACOMEビジネスコンテストにおいて、「AI活用の自動収穫ロボットで収益最大化」をプレゼンしたAGRIST株式会社の取締役COOの高橋慶彦さんにお話を伺いました。

きっかけは農業者からのアイデア

-自動収穫ロボットを開発しようと思ったきっかけを教えてもらえますか?

私たちの拠点である宮崎県新富町は施設園芸農業が盛んな地域で、ピーマンやきゅうりの産地として広く知られていますが、他の地域と同様に農業者の高齢化・担い手不足が進行しています。そこに危機感を感じた若手農業者や地域関係者が「儲かる農業研究会」という農業者コミュニティを立ち上げ、現場が直面する課題に対して「誰か」ではなく自分たちが率先して考え・行動するための議論を数年前から続けていました。その中で、人手不足を解決するための具体策として「ピーマンの自動収穫ロボット」というアイデアが出されたのがきっかけです。

-そこに高橋さんはどういう経緯で関わることになったのですか?

僕自身は東北で起業し、地域の魅力を発信するメディア運営などを行っていたのですが、その過程で新富町の地域商社「こゆ財団」と出会ったことがきっかけです。その後の経緯は色々あるのですが、「世界一チャレンジしやすいまち」をビジョンに掲げ、様々なプロジェクトを立ち上げる財団の組織風土に魅かれて、新富町への移住を決断しました。始めは空き家再生のプロデューサーとしての役割が与えられていたのですが、昨年秋頃にピーマンの自動収穫ロボットのベンチャー(AGRIST)を地域内で立ち上げる話があり、参画することとなりました。

本気で信頼し合える仲間の存在

-東北から宮崎への移住は大きな決断だと思いますが、迷いはなかったのですか?

ずっと迷っていましたね(笑)。東北にいた頃の自分は、デザインやWeb制作、コンサル、経営をやってきた経験もあり、周りからは“何でも出来る”と評価されていましたし、自分でもそう勘違いしていました。ただ、本気で何かを追求できていない感覚は自分でも持っていて、一言で表現すると『調子に乗っているクズ』のような感じでした。そのような中、“現状に満足する自分”と“変化を求める自分”の間を揺れ動く「狭間の期間」が数年続いたのですが、新富町在住の方がこゆ財団のプログラムを通じて大きく変わったことを目の当たりにして、個人・リーダー・経営者としてもっと成長したいと思い、移住を決断しました。

-新富町に移住してから実感としてどのような変化がありましたか?

役割が明確になることで、メンバー間で互いに信頼することが出来るようになりましたね。それまでは、全て自分でやるという意識で取り組んでいたので非常に大変だったのですが、一緒に事業に取り組む仲間がいて、それぞれの役割が明確なので本気で信頼し合えるような関係性ができました。また、そういう関係性でやっていくことで、自分が取り繕わなくても周りから評価・感謝されることが多くなり、一人ではなく集合体として取り組んでいくことの重要性を理解した点も実感としてあります。

必要性と実現可能性がクロスする「今」

-高橋さんのような他産業で活躍する方が農林水産業に関わる際、事業ではどのような点で苦労しますか?

誰も成し遂げたことがないことにチャレンジする難しさは当然あって、壁に当たる時や辛い時もありますが、楽しいという想いの方が強く、投げ出したいと思ったことはありません。世界で一番ピーマン収穫ロボットを作りたいという農業者や、世界のロボコンで活躍したエンジニアが、ロボットを一緒にやろうと言ってくれる。今までの人生で一番楽しい時間を過ごしています。

-AGRISTのように農業者と共創するような事業体が増えることが理想ですが、農業者とのやりとりで苦労する点などはありますか?

農林水産業に従事される方々は、常に自然を相手にビジネスをされているので、他の産業とは覚悟の度合いが違います。こちらが軽薄な想いでビジネスをやろうとするとすぐに見透かされてしまいます。その点、AGRISTのメンバーは「世界の農業課題を解決する」というミッションをメンバー全員が的確に理解し、それぞれがプロフェッショナルとして本気で取り組んでいるので、農業者とのやりとりで困惑することはありません。

また、農業現場でのひっ迫感もあると思います。今後10年20年のスパンで、人材不足が自分たちのビジネスを揺るがす大きな要素になっているとの実感があるから、全力で協力してくれる。今は、農業現場からのニーズが大きくなっている一方で、テクノロジーの進化により低価格でロボットを現場に実装することが可能となりました。自動収穫ロボットの必要性と実現可能性がクロスしているのが、「今」なんだろうと思っています。

地域との一体感が私たちの強み

-民間企業のAGRISTとして、地域との連携はどのように考えていますか?

今は、AGRISTのプレゼンスを高めることと、新富町をスマート農業の聖地にすることの二つに注力しているのですが、この二つは独立するものではなく車の両輪のようなものと考えています。つまり、AGRISTが結果を出せば新富町に関心を持ってくれる方が増える、新富町に関わって下さる方が増えれば更にAGRISTを応援してくれる方が増える。地域との連携という観点では、そのようなサイクルを回すことを意識していますし、この連携を可能とする「地域との一体感」は私たちの強みだと考えています。

ただ、関わって下さる方は誰でも良いわけではなく、「持続可能な社会を創る」という一点において共感できるかがポイントと考えています。今後は、ESG投資も含めて、綺麗事を実現していくような企業しか残れないような社会になると思うので、そんな未来を共有できる方々に関わっていただけると嬉しいです。

宮崎から世界の農業課題にチャレンジ

-最後に、「世界の農業課題を解決する」というミッションで、国内だけでなく「世界」と表現した想いを教えてもらえますか?

私たちが貢献できることについて、視座を高めていった時に、「日本人だけがどうあれば良い」というものでもないとの結論に至りました。世界各地で食料問題が起こっていますが、これを平和的に解決するには持続可能な形で食料を生産する体制をつくる必要があり、そこに人々が投資するような社会を実現する必要があります。

そういった社会を創るきっかけとなれるように「世界の農業課題を解決する」というミッションを掲げました。しかも、それを小さな町から生まれたベンチャーが実現します。これまでの「田舎じゃできない」から「田舎でも出来る」にパラダイムシフトを起こし、今以上に地方ベンチャーや農業が若者を魅了することができれば、持続可能な社会・農業の実現に貢献できるのはないかと考えています。

農山漁村の活性化に向けて、地域資源を活用した起業者を支援するイナカム。プラットフォームでは、高橋さんのように地域課題を解決するために新たなチャレンジをする方々と結びつくことが可能ですので、是非ご活用ください!