【秋田県で起業!】人口・農家の減少を「IT x エンタメ」の力で食い止める、トラ男プロデューサー

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地域で活躍する多様な起業家を特集するこの企画。今回は秋田県を代表して、地域活性化伝道師としても活躍されている、株式会社kedama代表、武田昌大さんにお話をお伺いします。ゲーム会社に就職後、ふとしたきっかけで起業をすることになった武田さんだからこそ語れる起業論に注目です。

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都会への憧れから、地方への危機感

―こんにちは、今日はよろしくお願いします。まずは武田さんの会社の概要をお伺いさせてください。

武田)こんにちは、株式会社kedamaの武田昌大です。私が行っているメイン事業は、「若手米農家集団トラ男」のプロデュースです。「トラ男」というのは、「トラクターに乗る男前」の略称です。トラ男プロジェクトでは、お米で有名な秋田県の農業の未来を明るいものにすることを目指しています。というのも、秋田県って少子高齢化が日本一の県で、農業従事者の高齢化は深刻です。このままでは秋田県のお米が無くなってしまう。そんな課題意識を持っています。トラ男プロジェクトでは具体的に、トラ男を応援してくれる人たちに毎月お米を届けたり、農業体験支援を行ったり、コミュニティ活動を届けたりしています。こういった活動を通じて、「農家ってかっこいいな」とか「このお米、後世に残したいな」と感じていただきたいです。

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「若手米農家集団トラ男」として活躍する3人

またもう一つの大きな事業の柱としては、茅葺古民家を活用した新ビジネス「シェアビレッジ」を立ち上げました。トラ男プロジェクトで秋田県の農業の活性化をしても、秋田県内の人口が減少していったら、結局は秋田県が衰退してしまうのではないかという課題意識があります。そこで、秋田県に人が集まる仕組みを作ろうと思った時に考え付いたのが、シェアビレッジです。「村があるから村民がいるのではなく、村民がいるから村ができる」と考え、まずは秋田県に人を呼び込む仕組みを作っています。このシェアビレッジをきっかけに、田舎の魅力を届け、地方に現存する素敵な風景を保存したいですね。

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茅葺古民家を活用した新ビジネス「シェアビレッジ」

ーなるほど、トラ男もシェアビレッジも、秋田県の抱える課題意識から出発しているのですね。武田さんは昔から秋田県の復興に興味があったのですか?

いえ、そんなことはありません笑。どちらかというと、都会に憧れている少年でした。私が生まれ育った北秋田市は、とても自然に溢れていて自然の中で遊ぶのが一般的でした。ゲームやカラオケといったものは自宅の周りにはなくて、ゲームに初めて出会った時は非常に興奮し、「将来はゲーム会社で働こう」と思ったものです。実際、大学を卒業した後、都内のゲーム会社で働いていました。この頃は全く秋田県の農業には興味がなかったと言っても良いかもしれません。

ふとした機会に、秋田県の実家に帰省しました。その時に、よく訪れていたシャッター街が以前にも増して寂れていること、というよりほぼ人の気配がしないことに気づいたんですよね。都内での人がごった返している生活に慣れていたせいかもしれませんが、秋田県から人がいなくなっているのを身をもって感じました。またこれをきっかけに、「このまま何もせず放置していたら、自分のふるさとが無くなってしまうのではないか」と漠然とした不安を抱くようになりました。何とかしなきゃ、変えなきゃと思いましたね。

ー都内の生活に慣れた頃に帰省して、秋田県が直面している課題に気づいたのですね。

はい、その通りです。この状況をなんとかしなきゃとは思ったものの、なんのアイディアもありません。なので、とりあえず「秋田県関連のイベントって都内でやっているのかな」と気になり、ググってみたんです(笑)すると新宿でイベントをやっていることを知り、実際にそのイベントに行ってみました。すると、その会場には300人くらいのお客さんが集まっていたんです。これにはひどく驚きました。自分よりも活動的な人たちが既にこんなにいるのかと。自分もこの活動に混ぜてほしいと思いました。その旨を伝えると快く受け入れてくれ、その団体で活動することに。そこでは秋田県の他の地域出身の方々との触れ合いがあり、秋田県の持つ魅力に再度気づかされました。

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お世話になっている農家さんとの記念写真

ここでもまた、自分にはできることはなんだろうと悩みます。最終的にはゲーム会社で身につけたデジタルの知識と、大学時代を関西で過ごし磨かれたエンタメの力を生かした事業を持ちたいなと考えるようになりました。デジタルとエンタメという私の強みと、秋田県の強みである農業を掛け合わせられないかと考えたのですが、私の実家は農家ではないし、そもそも知り合いに農家がいないことに気づきます。

そこでまずは、農家の知り合いを作ろうと思って、アポなしで農家に突撃することにしました。車を走らせて、見かけた農家さんに突撃インタビューをするんです。平日は東京で働き、土日は秋田県でインタビューをするというなかなか大変な作業でした。しかし頑張った甲斐もあって、土日の18日間、つまり約3ヶ月で農家の方々100人にインタビューしました。そこで得た衝撃の事実が「お米って混ぜられる」ってことだったんですよ。

初めて知る、”お米が混ぜられる”という現実

ーん、お米が混ぜられるってどういうことでしょうか?

お米の農家さんって、それぞれが丁寧に丹精込めてお米を作っていますよね。そのお米って出荷のために一度、JAに納める必要があるんです。そこで他の農家さんが納めたお米が一緒に混ぜられます。そして最終的に、パッキングされて、お店に発送されるんです。つまりどんなに丹精を込めてお米を作っても、最終的には他の誰かが作ったお米と区別がつかなくなってしまうんですよね。顔がなくなってしまうというか。これはとても悲しいことだと思いました。

逆に農業をやっていてよかったことを聞いてみると、「直接お米を買いに来てくれる人がいて、その人がお礼を言ってくれること」だと言っていました。 しかし、現状はそういった流通スタイルはほとんど普及していません。だからこそこういった個人からお米を買い付けるシステムが必要だと強く感じました。

ー確かに、生産地は書かれていても誰が作ったのかは全くわからないことが多いですね!

そうなんです。このままのシステムでは「農家の方々のやりがい」は奪われたままなのではないかと思い、直販システムを立ち上げることにしました。大手通販サービスに出品するのも案にはありましたが、せっかくなので「SNSで繋がる、ソーシャルコマース」をコンセプトに仲間を募集しました。すると、若手3人が集まり、若手農家集団を結成することに成功しました。これがトラ男結成秘話になります。

毎月お米の宅配サービスをやるだけではつまらないと思ったので、何か面白い「見せ方」はないかなぁと考え、購入の契約を結んだ方を「トラ男の一家」としたら迎え入れたら面白いんじゃないかと考えつきました。トラ男を応援したい人々を1つのコミュニティとして捉えていくのです。そしてお米の宅配サービスだけでなく、都内に「おむすびスタンドANDON」というお米をその場で味わえる場所を作りました。ここはおむすびが食べられるだけでなく、トラ男コミュニティの方々の憩いの場となっていますね。

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日本橋で美味しいおにぎりを食べるなら「おむすびスタンドANDON」

秋田県にみんなが集まれるあったかい場所を作りたい

ー直販の通路が広がってきているのですね、秋田県の農業に少し光が指しているように感じます。シェアビレッジについても教えていただけますか?

SNSや首都圏で開催しているイベントを通して繋がったファンの人たちを今度は秋田県に連れて行き滞在できる場所を作ったらどうだろうかというのが、シェアビレッジ構想の一つのきっかけですね。この構想を考えているときに偶然、築133年の古民家に出会いました。すごく素敵な古民家で、初めて見たのに、どことなく懐かしさを感じたんですよね。この物件のオーナーさんに話を聞いてみると、夏にはこの古民家を取り壊そうと考えていると聞いて衝撃を受けました。というのも、茅葺き古民家は維持費だけでもかなりの費用が必要だし、屋根を直すとなるとそれだけでも1000万円かかるそうで。

この時に気づいたんですよね。私が知らないだけで、このように日本全国の知らない素敵な家が日々無くなっているんじゃないかと。日本全国の素敵な場所を保存したい、そのためには新しい仕組みが必要だと考え、シェアビレッジ構想を本格化させます。

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四季折々の風景を楽しめる

実は古民家を活用したビジネスは既に全国各地で行われています。例えば古民家カフェは都内でも見かけますよね。 しかし茅葺古民家がある所は観光地ではなかったので、宿やカフェにするのもいまいちでした。そこで私が得意とするエンタメ要素である「見せ方」に工夫を凝らします。 茅葺古民家を会員制の民宿として運用し、会員を村民と呼び、会費を「年貢(NENGU)」に擬え、定期開催イベントを「寄合(YORIAI)」、会員が現地の茅葺古民家を訪れることを「里帰(SATOGAERI)」と称します。

このようなコンセプトが出来上がった段階で、クラウドファウンディングをしたところ、600万円を達成し、無事シェアビレッジプロジェクトがスタートしました。今ではシェアビレッジは複数あるので、今後も素敵な家屋を守るべく精進していこうと思っています。

失敗を恐れずに「好きなことを好きな場所」でやることの大切さ

ー武田さんの「見せ方」を工夫し、人を巻き込んでいく力ってすごい魅力的だと感じました!そんな武田さんにも、起業してから苦労したことや失敗したことってあるのでしょうか?

失敗だらけで、常に苦労はしています。しかしその苦労も楽しめているというのが本音ですね。だって、起業したら自分でやるしかないんですよ(笑)その中で出てくる課題というのは、やりたいことのためだから解決しますし、大抵のことはやればできます。できないなら、やれるようになるまでやるだけです。

これはゲームで考えるとわかりやすくて、ラスボスを倒すためには何度でも挑戦しますよね。地道にアイテムを集めたり、キャラクターを育成したり。これは達成したいことがあるからできるんです。ゲーム内で対戦相手に負けても経験値が貯まるように、ビジネスでちょっとした失敗をしても経験値がたまります。あまり臆病にならずに挑戦し続ければ、苦労は乗り越えられるし、失敗した経験も成功体験につなげることができますよ。

ー起業をゲームに例える、、、納得です!起業家を志す若者に伝えたいことやメッセージはありますか?

起業家を志す上で大事だと思っていることは「好きな場所で好きなことをやること」ですね。そのためにはまず、どこが好きなのか、何が好きなのか、といった自分の内面に質問を投げかけてみて欲しいです。そして何が好きかわかったら、情熱を持ってその物事に取り組みます。情熱を持って走っていると自然と仲間もできて、活動を後押ししてくれますよ。

また最近は、思い描いたことを実行しやすい世界になっていると思います。「こんなことできたら良いのに」という願いが叶うのです。型にハマってなくても良いし、頭おかしいと言われても良いから、まずはやってみると良いと思います。そういうチャレンジを応援していますよ!

ー今興味があることや今後取り組んでみたいことなど、将来の展望をお聞かせください!

やりたいことは山ほどあります笑。例えば秋田県といえば、秋田杉が有名です。こういった秋田県の特徴を生かしたビジネスアイディアを練っているところです。また、寂れてしまった商店街の活性化も行なっていきたいですね。秋田県って、日本一の田舎なんですよね。つまり、田舎の最先端を走っているので、地域問題を解決するロールモデルはここ秋田県から生み出せると思っています。地域には今すぐ解決しないといけない課題がたくさん眠っています。今後も私にしかできない切り口で、地域問題に関わっていきたいと思っています。

執筆者:戸谷豪志

協力 ローカルクリエイターラボ