地域で活躍する多様な起業家を特集するこの企画。昨今、「生まれたまちに貢献したい」と地方に魅力を感じている若者が増えています。 今回は、京都府を代表して、㈱大滝工務店の大滝雄介さんにお話をお伺いします。
ーまずは大滝さんの会社の紹介からお願いします。
大滝工務店は、1952年の創業以来、京都府北部の暮らしをつくる、まもることを通して 地域の暮らしに豊かさを提供してきた会社です。 創業当時から、地域の建築業界をリードするという思いで、 真摯にものづくりに取り組んできました。また老舗と言われる立場ではありますが、 3代目である自分の代に変わってから、建築づくりはもっと楽しく自由であるべきだとの考えのもと、 新しい取り組みにもどんどんチャレンジしております。
具体的に言うと、地場の工務店として、住宅の設計から現場の施工まで手がけています。ときには、公共工事を行ったり、発電所の維持・修繕の仕事を請け負ったりしています。現在は、25名の社員と一緒に取り組んでいて、そのうちの5名が大工さんです。大工さんというのは、数名規模でされているところが多く、弊社のような規模の工務店だと合理性のために大工は外注に出しているところが多いですが、弊社は腕の良い大工を自前で育て続けるという創業者の思いを受け継いできています。ちなみに、僕は全体の経営はもちろんですが、営業や設計の業務に主に携わっています。
ー具体的には、どんな取り組みを行っているんですか?
個人では、KOKINというまちづくりを行うチームを立ち上げて、空き家や古民家のプロデュースを行ったりしています。また、会社では会社が資産として持っていた遊休地を使って、村を作ろうとしていたりしています。KOKINでは、これまで明治時代からある古民家をリノベーションした「ゲストハウス宰華庵(さいかあん)」の立ち上げや、チャレンジしたい人が1日からお店を出せる日替わり店長のカフェ FLAT+を立ち上げたりしました。
日替わり店長お店 CAFE FLAT+
ちなみに、ゲストハウスの宰華庵(さいかあん)は、Booking.comのスコア9.3を取らせていただいて、舞鶴の宿泊施設の中でも有数の場所になってきています。
ゲストハウス宰華庵(さいかあん) 昔はたばこ屋さんとしても使われていたそうです。
また、会社の方での取り組みは、その名も「KAN,MA(カンマ)上安プロジェクト」です。約1200坪の住宅跡地に、木造の住宅や宿泊棟、カフェなどををつくり、地域の人々が集う新しい場を生み出そうという計画です。現在、敷地内にはカフェと建設中の分譲住宅があり、カフェの隣には住まいや暮らしについて、気軽に相談できる窓口”くらしのコンシェルジュ”がいて、いつでも住まいや暮らしについて相談できるような空間を作っています。
ーこれらの取り組みは、跡を継ぐ前から構想していたことなんですか?
いえ、私は高校を卒業した後に、すぐに関東の方に出ていました。当時は「とにかく、地元舞鶴を離れたい」という思いが強かったので、家業を継ぐとかそういうことも全く考えていませんでした。家業を継ぐという話になったのは、大学を卒業して社会人になって2年目の時当時、ノリに乗っていた社会人生活を送っていたんですが、色々と悩んでいる中で、「家業を継がなければ、一生引っかかるかも知れないし、これからどうなるか分からない人生を送るのも面白いかもしれない。」と思い、悔いのない人生を送りたいということで、Uターンをして、家業を継ぐことを決心しました。
ー今行っている新規事業の数々は、どのようなタイミングで生まれたものなんでしょうか?
舞鶴に帰ってきて、2年目ぐらいから「自分のプロジェクト」を模索していました。事業や活動を通じて、自己表現をしたいと思いがありました。というのも、サラリーマン時代は地味に過ごしていたんですが、せっかく帰ってきたんであれば何かをしたい!と思っていたんです。ただの後継ぎのボンボンと周りに思われたくないからこそ、とことんチャレンジをして結果を出そうと思っていました。ただ、実際に活動を始めたのは、Uターンして4年目くらいからになります。
ー構想から実行まで、2年の期間が空いているのですが、こちらは何かがあったんですか?
そうですね。最初の4年は、会社の状況もあまり良くなかった。ということもありますし、僕自身が社内でポジションを確立するのに非常に苦労をしました。当時の会社には巨額の負債があり、日々金策に追われていました。経営改善をするために、リストラを始めとする支出削減と利益率のUPを行い結果、黒字に転換しました。ただ、その中でも「自分の居場所や存在価値はなんなんだろう」と思っていました。
しかし、自分が変わってから、その状況は変わりました。2012年に結婚をしてから、「家族の大切さ」を感じるようになったのです。すると、大滝工務店で働いてくれている一人ひとりの方々は、それぞれの家で立派な親であるということに気づきました。それから、社員を1人の人間として尊敬をするようになりました。人の個性を見るようになってから、社内が少しずつ変わっていき、業績も次第に良くなっていきました。そこから、KOKINを立ち上げたりという活動を始めていきました。
KOKINに集まった人たちとの集合写真
ー大滝さんは、家業を継いで結果的には上手く行っているとは思いますが、「事業承継」のどんなところが良いと思っていますか?
事業承継の良いところでいうと、”経営基盤や経営資源のある状態から事業を始められる”ということだろうなと思います。というのも、世の中やりたいことがある人って物凄く少ないと思うんですよね。またあったとしても動ける人は限られているんですけどね。それを踏まえると、事業承継をするということは、眼の前にやることがある状態になんですよ。それをひとつづつ積み重ねていくと、「やりたいこと」が見つかってきて、自由に経営資源を活用して取り組むことができると思っています。
だから、工務店を継いだからこういった場づくりを通した新規事業に取り組めたと思う部分がある反面、例えば僕が、豆腐屋とかクリーニング屋の息子で生まれていたとしても、何かやりたいことがムクムクと生まれてきて、この仕事のいいところをもっとこんな風に活かしていきたい!と何かしらチャレンジしていたんじゃないかなと思っています。与えられた環境ではなく、「いかに面白がって創れるのか?」というマインド次第で何でも面白いことが出来る。これが事業承継の良いところだと思います。
ー確かに、既にある環境をいかに利活用するか?という視点は事業承継だけでなく、地域活性化においても物凄く大事な視点ですね。大滝さんは20代の頃から、地域で事業を行われていたと思いますが、「地域で事業を行うこと」はどんな良い部分や悪い部分があると思いますか?
地域は都心に比べて競合が少ないので、インパクトを生みやすいということは良い部分だなと思っています。また、人と人との距離が近いので、人付き合いや信頼で仕事を得ることが出来たりします。都市部だと、値段やサービス内容だけで決められる部分もあるので、それに比べると温かいとか思っています。
一方で、地域で事業をすることの悪い部分としては、比較対象がどうしても地元だけになってしまうが故に何となくで出来た気になってしまったり、刺激を受ける機会が多くないということがあるなと思っています。めちゃくちゃクオリティが高くなくても、商売として成立しているものって地域には結構あると思います。あとこれは建設業という業種だからという部分もあると思いますが、都市部が遠いので、ビジネスの広がりは生みにくいなとも考えています。
ービジネスの広がりで言うと、地域の市場はこれから人口減少に寄って縮小していくとは思いますが、それを踏まえて大瀧さんはどうこれから事業をやっていこうと考えていますか?
KANMAでの日常風景
地域の経済規模が縮小しても、大滝工務店の規模が縮小していくわけではないと考えています。実際、今の舞鶴でのシェア率が100%でもありませんし。しかし、今と同等以上の成長は出来ると思っていますが、今のやり方のままですと大化けはしないと思っています。そこで、大滝工務店としては、例えばスノーピークのような”地方にあっても場所に関係なく人を惹きつけるカッコいい会社”を作っていきたいと思っています。そして、この地域で頑張っている会社の一つ、というところから、大滝工務店といういい会社があってそれは舞鶴ってところにあるらしい、という風に世間に思ってもらえるような会社にしていきたいと思っています。
そのためには、絶えず新しいことにチャレンジし続けることで人々を引きつけていかないといけないと思っています。実際に、KOKINやKANMAのような新規事業を始めてから、都市部から「大滝工務店で働きたい」と言って、エントリーしてくれるようになってきました。そんな魅力的な会社を作っていけば、時代や市場の縮小とは関係なく生き残っていけると思っています。
ー今後の大滝工務店の進展に注目ですね!では、最後にこの記事を読んで頂いてる方に一言いただいてもよろしいでしょうか?
地方には何もないと思っている方もいるかも知れませんが、地方はアクションを起こせばたくさんの可能性や情報を手に入れることが出来ます。そして、使われなくなった資源が沢山あります。そんな絶好のフィールドで是非チャレンジしてみてください!
執筆者:濱田祐太