地域で活躍する多様な起業家を特集するこの企画。今回は、広島県福山市で人と人とが繋がる素敵な居酒屋をオープンさせた1人の青年にインタビュー。彼の名前は、倉田敏宏さん。広島県福山市で「暮らしの台所・あがりこぐち」を経営しています。オープンして1ヶ月はお客さんが来なくて大変だったと彼は語ります。その状態からどのようにお店を立て直し、より魅力的な居酒屋になったのか。実体験を元に、隠された秘訣に迫っていきます。
人間の可処分時間は約2時間。その時間をどう豊かに変えていくか。
暮らしの台所「あがりこぐち」の内観
ーまず倉田さんが経営されている会社についてお聞きしたいです!
倉田)私は株式会社tachimachiという会社を経営しています。会社の理念は「暮らしの余白を彩る」で、暮らしの台所・あがりこぐちという居酒屋の事業をしています。せっかくなので理念について説明させてください。キーワードは「可処分時間」。可処分所得ならまだしも、可処分時間と言われてもピンとこない方もいるかもしれません。可処分時間とは、「仕事や睡眠を除いた自分が好きに過ごせる時間」を指します。簡潔に言えば、余暇の時間ですね。総務省がデータを出しているのですが、可処分時間と言って、休養や娯楽。趣味に使う時間が1人あたり1日2時間ほどあります。
出展:総務省・社会生活基本調査
ー確かに仕事を終えて自由に過ごせる時間って2時間くらいかもしれないです。
その自分が自由に過ごせる2時間を有効活用するとなった時に、ただひたすらボーッと過ごす選択肢もあるのですが、せっかくの余暇時間ならどこかに行ったり、遊んだりした方がいい時間になると思っています。僕はその2時間を豊かにしたい。つまり、「暮らしの余白を彩る」は言いかえれば、可処分時間を豊かにすることなんです。
ーなるほど。そのような想いが込められているんですね。その理念から暮らしの台所・あがりこぐちという事業が立ち上がっていると。
そうです。仕事が終わった後の可処分時間2時間でどこに行くだろうと考えた時に、弾丸でテーマパークに行って非日常を味わう人もいるかもしれないですが、多くの人はそうではないだろうと。自分の中では、非日常を求めるのではなく、日常の中にヒントがあると考えました。そしてたどり着いたのが居酒屋です。僕自身も居酒屋が好きですし、何より世代や趣味、価値観を超えてお客さんと喋るのが楽しい。居酒屋で過ごす時間が、僕なりの豊かな時間でした。そこから派生して広島県福山市で「暮らしの台所・あがりこぐち」という居酒屋をやっています。4人がけテーブルが2つあり、カウンター席も5つあって13人が入る小さめの居酒屋です。
偶然見つけた一冊の本が僕の未来への不安を成功への確信へと変えた。
積極的に近くの地域の旬のものを取り入れる
ー居酒屋を始めようとした理由はよくわかったのですが、なぜ広島県福山市で店舗をオープンしようと思ったんですか?
大きな理由としては、生まれた場所が福山市だったからですね。地元で馴染みのあるところで居酒屋を経営できたら、楽しい場所になるんじゃないかなと思っていました。居酒屋を始めようかと考えてる時にイベントで出会った福山市に住む飲食業の先輩経営者から、「飲食店のインキュベーション施設が空いてるで」と声をかけてもらいました。それが2017年の10月ですね。
ーそれはいい出会いでしたね!でも始めるにあたって不安とかなくスムーズにオープンまで進んだんですか?
正直、不安だらけでしたよ(笑)だって初めての挑戦だし、うまくいくかどうかなんてわからないじゃないですか。しかも自分の場合、居酒屋で働いた経験がなかったんです。だからこそ余計不安でした。そんな中、本屋である一冊の本と出会ったんです。先輩から話をもらって1ヶ月後のことでしたね。本屋にいると、居酒屋界の神様とも称えられる宇野隆史さんの『トマトが切れれば、メシ屋はできる 栓が抜ければ飲み屋ができる』という本をたまたま目にしました。
なかなかインパクトのあるタイトルですよね。自分は、表紙を見ただけなのにこう思ったんです「自分はトマトも切れるし、ビールの栓も抜ける。だから、居酒屋をオープンしてもやっていける」と。料理も好きで、家庭料理レベルだったらできる。だからきっと大丈夫だと思ってからは早かったですね。最終的には、2018年の3月にオープン。構想してから半年かからないくらいでオープンまでたどり着きました。
オープンして1ヶ月の人がこない日々。目の前のお客さんを楽しませることが大切だと気づく。
台所のシトラスサワーシリーズと倉田さん
ー話が来てから約半年でオープンだとかなりスムーズだと思うのですが、その後の経営は順調だったんですか?
オープンしてから数日は知人が遊びに来てくれたもの最初の月の売り上げは最悪でしたね...3日間誰もお客さんがきませんでした。ただ焦ることはなく、自分としては、うちの店の力不足なだけで改善するしかないと思いましたね。単純にお客さんにいいもの渡せてないだけの話だと。だからこそ、1人でもお客さんきてくれたら全力投球で楽しんでもらう。お客さんがどうやったら笑顔になってくれるのかをずっと考えていました。
ー具体的には、どのように笑顔になってもらう工夫をしたか教えていただけますか?
まずは、メニュー内容を変更しました。その時期の旬とか流行りを加えるようにしました。その方が食事も季節に合わせて楽しめるようになるじゃないですか。大きな改善としては、料理のネーミングを変えましたね。例えばじゃがバターは「インカのめざめ」というジャガイモを作ってお出ししてるんです。せっかく特殊な名前がじゃがいもについているのだから、「目覚めたジャガバター」という名前に変えました。
この名前にすると、お客さんが面白がって「このジャガイモ、目覚めてるの?笑」と会話が始まるんですよね。他にも「ラーメンの具のやつ」とか!300円でメンマと半熟卵のおつまみなのですが、トッピング400円で麺とスープつけますよと言っています。「ラーメンの具のやつ?なにそれ?」と聞いてきたお客さんに説明したあと、焼き枝豆を注文された時は笑いましたね(笑)
ラーメンの具のやつ
あとは、「台所のシトラスサワーシリーズ」ということで、頑固親父の麦レモンサワーだったり、ツンデレ姫レモンサワー、渋い男のレモンサワーという名前にしてお出ししてます。ネーミングにこだわることで、僕とお客さん、そしてお客さん同士が楽しい会話ができるきっかけになります。そうすることで、ただ食べるよりも楽しく感じると思ってますね!
ーどれもネーミングを工夫することで違った料理に感じますね!一般的なメニューよりも活き活きしてる気がします。
自分のお店は小規模の居酒屋だからどんどん工夫を加えて改善していけるんです。今日の午前中何か思いついたら、夜のオープンまでに準備すれば、一つ試すことができますよね。そうしてお客さんに楽しんでもらって笑顔になってもらう。そうやってお客さんのことを考えているからこそ、帰り際に「楽しかった。また来るわ!」と言っていただけた時はやりがいを強く感じます。
地方だからこそのデメリットを感じたことは一度もない。
ー福山市での起業にあたって、地方だからこそのメリットなどあれば教えていただきたいです。
なんといっても、色々な人と繋がりやすいことですかね。東京にいて、普通に道端で声かけられることなんてないじゃないですか。でも、福山にいると「倉田君なにしてるの?」と路上に頻繁に声をかけられます。その会話をきっかけに一緒に食事に行ったり、逆に「お前の店いくけえな」と声をかけてもらったりしますね。いろんな人が味方になってくれるので本当にありがたいです。
お客さんで賑わう店内
あとは、技術を盗める先輩が身近にたくさんいることですね。特に福山は日本トップクラスで社長が多い地域です。「石を投げたら社長にあたる」なんて言葉もあるくらいですからね(笑)なので、挨拶したりとか、「お久しぶりです」とか一声かけるとかが大切です。ありがたいことに、人として大事なところをやって自ら手を動かしていけば、「あいつ頑張ってんじゃん」みたいに思ってくださって、すごく面倒を見てくださったりします。
ー逆に地方だからこそのネガティヴな側面を感じたことはありますか?
僕はないですね。気づいてないだけかもしれないけど(笑)単純に自分は地元の人間だったからかもしれないですけど、本当に悪いことはないですね。ただ、去年の7月の豪雨から学ぶことは大きくて。福山の中心部は被害なかったのですが、近くの地域は断水していました。その時、交通インフラが遮断されたことによって、繁盛店でお客さんが多い店ですら客足が途絶えて全くお客さんが来なかったそうです。特に地方はインフラが整ってる地域ばかりではないので、災害などが起こるとネガティブで悪い点が出てくるかなとは思います。
ー災害は地方に限らず都会も影響を及ぼしますが、インフラという観点だと地方の方が立て直すのに時間がかかりそうですね...
でも総合的に見ると、地方はチャンスが溢れてる場所だと思うんです。誰でも1番になれる領域が必ずあります。そこまで競合も多くないですし、お互いに協力し合う姿勢がある。真摯にお客さんに向き合い続けていれば、愛されるお店になっていくと思いますよ!
現代版ルイーダの酒場で、今後も人を繋げ続けていく。
ーでは最後になりますが、倉田さんの将来のビジョンを教えてください。
ドラゴンクエストをやった人ならわかると思うのですが、暮らしの台所あがりこぐちを現在版ルイーダの酒場として、人を繋げ続けていきたいですね。
ーすみません。ルイーダの酒場がよくわからないという...(笑)
ドラゴンクエスト内にある、出会いと別れの酒場です。酒場で出会った仲間とパーティーを組んだりすることのできる場所。結果的にその組んだ仲間と一緒に魔王を倒したりする始まりの場所です。ルイーダの酒場をあがりこぐちに例えるなら、僕は酒場のマスターな訳です。人を紹介して繋げる。そこから何かのプロジェクトだったり、仕事の案件に繋がって、もしかすると人生を変える大イベントが発生するかもしれない。僕はそういう役割が好きですし、そうやって頑張ってる人たちを見るのが夢でした。夢がかなっているんです。
ー今後も人をあがりこぐちを経営することで、人を繋げ続けていきたいということですね!
はい。そして少しでも多くのお客さんに笑顔になってもらいたい。あとは、近い将来は東京に進出したいです。東京のスタートアップで働いてるような人たちが、家に帰る前にホッと一息つける空間を作りたいですね。福山のあがりこぐちと東京の店舗を繋げて、東京から福山に実際に来て欲しいですし、福山から東京に行って刺激をもらって欲しい。それが僕の将来の目標です。この記事を読んで少しでもワクワクした人は、ぜひ現代版ルイーダの酒場である暮らしの台所「あがりこぐち」に遊びにきてください。新しい出会いを楽しみながら、地元の食材を使ったおつまみと、台所のシトラスサワーで乾杯しましょう!
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執筆者:中村創
協力 ローカルクリエイターラボ