新時代の勝ち組み地域に生まれ変わるために起業家や自治体が今すべきこと

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地方創生という言葉を耳にすることが多くなった昨今。皆、口々に地方を活性化しなければならないと問題を口にするが、本当の意味での地方創生とは一体なんなのだろうか。年間3,000人以上の起業家の支援を行いながら、多くの自治体とも関わりを持ち、地方の現状を目の当たりにしてきた、株式株式会社ウェイビー代表の伊藤健太氏に地方と起業の現状を聞いた。

加速するビジネスのスピードについてこれるか

本来、僕が得意なのは起業家が社会に対して価値のあるものを作っていくことをサポートすることです。全国の自治体から声をかけていただくようになってからもその部分は変わらないと捉えています。僕が行なっているのは、地方に起業を掛け合わせて人を活用すること。地域活性を考えた時に、本当に地域のためになることって、個人個人が栄えていくことだと思うんです。地域活性という問題を地域として捉えるのではなく、個人や1つの会社が圧倒的に発展していくことの延長に地域活性の持続性があると思っています。

今、ビジネスのスピードは昔からは考えられないくらい早くなっています。1980年代に日経ビジネスで組まれた「会社の寿命」の特集によると、当時の会社の寿命は70年でした。同じアンケートを2013年に行うと、会社の寿命は40年も短くなっていたのです。なぜこのようなことが起こっているのか。原因は、80年代に比べて情報を得るスピードが早くなったことにあります。

スマートフォンが普及した現代において、情報を得ることは容易です。欲しい情報をボタン一つで、無料で得ることが可能になりました。他社のアイディアの情報も簡単に得ることができるので、競合他社が製品やサービスの真似をするようになり、結果として競合が増えることになりました。新しいアイデアが生まれるたびに、同質化していったのです。従来のビジネスは、既存の事業のPDCAをまわしてブラッシュアップしていくことで成り立っていました。しかし、多くのビジネスが同質化している現代において、既存の事業を改善していくだけでは生き残ることが難しいのです。

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株式会社ウェイビー代表 伊藤健太。慶應義塾大学3年時リクルート主催のビジネスコンテストで優勝し、23歳の時に病気をきっかけに小学校親友4名、資本金5万円で起業。2016年末に、世界経済フォーラム(ダボス会議)の若手リーダーとして日本代表に選抜。 2018年8月にスイスのダボスで開催された、世界の若手リーダー140カ国から400名超が集まる、グローバルシェイパーズサミットに日本人3名のうち1名として参加。2018年9月1日より、徳島大学客員教授にも就任。現在は多くの地方自治体からの依頼を受け、地方と起業家をマッチングさせる活動も行なっている。

地域活性の肝は新しいものを生み出すことができるか

日本の企業は、もともと存在しているものをよりよいものにしていくことが得意です。しかし、0から新しいものを生み出すのが苦手な傾向があります。何かしらの課題を与えられて、改善に取り組むことは得意なのですが、課題自体を見つけることが得意ではないのです。しかし、企業や自治体が生き残っていくためには新しいものを生み出しつづけることが何よりも重要になります。今までのやり方が通用しなくなっていることに早く気づき、新しい考えを取り入れた会社だけが生き残れるのです。

従来の企業に新しい変化をもたらすのは、若者の柔軟な発想だと考えています。若い意見をベテランの世代が切り捨てるのではなく、サポートしてともに事業を進めていくことが重要なのです。地方でも、若い世代とベテランの世代が分断しているということをよく目にしますが、これでは新しいものは生まれません。アイディアを持っている若者と、力を持っているベテランの役割を認識してプロジェクト進めていくことが新しいことを生み出すためには不可欠なのです。

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熊本県人吉市での学生を中心とした起業プログラムの様子

地域と起業家を結びつけることで生まれる新しいビジネス

自治体が行なっている地域活性の議論を聞いて思うのは、どうすることが地域活性につながるのか明確なゴール設定がされていないとういうことです。誰も同じゴールを見ていないのに、地域活性というふわっとした抽象概念のなかで議論を続けているんです。地域活性といっても、「人口を増やすこと」「税金を増やすこと」「会社を増やすことなど」さまざまな要素があります。なのに、何が本当に必要なのかを議論することが重要なのですが、それがごっそり抜けているんです。

まずは明確なゴールを設定することが必要になります。また、さまざまな地域に関わらせれていただける中で感じているのは、自治体間で競争をしているだけで新しいことを何も生み出せていないということです。ふるさと納税がいい例ですが、あれは成功例を他の自治体が真似しているだけで、これでは新しいものは生まれていきません。新しいものを生み出すためには、本気で世界を変えようとしている外部の人の力が必要だ考えています。田舎に行けばいくほどITを知らない人が多くなりますが、本当は田舎にこそITが必要なんです。でも、それがなぜ必要なのか田舎の人はわからない。そのテクノロジーが必要なことを地域の人が気付けていないんです。そういったところに切り込んでいける起業家と地域をマッチングすることで新しいビジネスが生まれるのです。

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千葉県銚子市の視察ツアーでのキャベツ農家視察

地域創生のキーファクター「起業家」

自治体はその地域で起業する人を集めたがりますが、それは少し具体性にかけています。自治体が想定しているのは、雇用を生むような企業を展開できる起業家です。しかし、大きな企業を創ることは想像以上に難しく、力のない起業家が集まっても地方に利益は生まれません。僕が行なっているのは、地場の企業さんと東京の起業家を結びつけるということです。

素晴らしい起業家を地方に連れていって、地元の方と一緒にできるプロジェクトをすすめていくのです。シンプルに都会の起業家の視野を繋げようとの思いと、地域に新しい風をふかす狙いもあります。行動力のある起業家が地方にいくことで、その地域の人たちが気づいていないビジネスチャンスに気づくことが多くあるのです。地元企業に新しいプロジェクトを提案し、熱量のある人同士が組んで事業を行なってもらっています。事業が発展していくことで、住んでいる人の士気も高めることができますし、地方に眠っているリソースの活用にも繋がります。とにかく、地域の外から人を連れていって、地元の企業を巻き込んで新しいことを進めています。

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千葉県銚子市の日本で唯一の手作り風船工場の視察

地方企業にこそ必要な事業承継

高齢化社会において、今後127万社もの会社が潰れてしまうというデータがあります。これから起業を考えている人はこういった企業を引き継ぐということも選択肢の一つになると思います。自分のアイディアだけを武器に起業するよりも、既存のリソースを生かすことで事業展開のスピードを早めることができます。また、最近ではスモールM&Aも多くみられるようになりました。今までは大きな会社だけの話でしたが、現在はメルカリのような感覚で事業売買が可能になっています。今後、地域内で承継できない会社がたくさん出てくるので、情報を集約し、地元の資産とのマッチングで外の起業家の力を借りるといいうことも有効だと思います。

典型的な地域活性の失敗パターンとは

さまざまな自治体と関わらせていただく中で、自治体と民間の足並みがバラバラな状態ということがよくあります。足並みが揃っていないと、そこにムダなエネルギーを使ってしまうことになります。たとえば、ムダなミーティングにも全員参加させるとか、ミーティングのミーティングを行うとかそういったことは非効率的だし、意味がないことです。また、自治体と民間の間で責任の押し付け合いが起きたり、逆にお互いが遠慮しすぎてお見合いに状態になってしまって何も決まらないなど、多くの問題を抱えているように感じています。

事業をやっている人なら当たり前にわかることが自治体はわからないのです。こういった体制には、僕のような外から来た人間が意見をすることが重要だと考えています。意図的に空気を読まず、横槍を指すことが必要なのです。

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学生を対象とした地方での講義の様子

自治体の協力で企業が活性になる

僕は日本1番起業支援に優れているのは神戸市だと思っています。どこの自治体も起業塾やビジネスコンテストは行なっていますが、創業まもない起業家に必要なのは実績です。実力があっても実績がなければなかなか仕事を得ることはできません。僕はその実績を得る機会を自治体がつくることが地域に力のある起業家を創ることにつながると思っています。神戸市は創業間もない企業に多くの業務発注を行なっています。それも社員が一人の小さな会社にも業務を委託しているのです。行政からの仕事を行けた企業は、実績ものなりますし、行政と仕事をしたというネームバリューで仕事が取れるようになります。さらに、神戸市で行なっている起業家を育成するための起業のプログラムには外国人の応募が多いのです。応募者の半数くらいは外国人なんです。

今後、外国の方と一緒に事業をしていくこともトレンドだと思っています。自分が今まで付き合ったことがない人と交流することで新しいビジネスを生み出すことができるのです。さらに、日本での事業の他にも一緒に事業をした人の母国での事業展開もやりやすくなります。こういった新しいものを生み出すことを応援してくれる自治体や地域が増えること、そして、何を目指しているのかゴールを明確にすることが地域活性の鍵になるのです。