INACOMEでは、ビジネスモデルからは把握しづらい起業者の想いやビジョンを広く知っていただくために、INACOME参加起業者のインタビュー記事を掲載します。
今回は、令和2年度INACOMEビジネスコンテストにおいて、「75歳以上のおばあちゃんたちが働ける会社」と題してプレゼンし、最優秀賞を受賞したうきはの宝株式会社 代表取締役の大熊充さんにお話を伺いました。
■75歳以上のおばあちゃんたちに仕事(収入)と生きがいを作る事業
-まずは事業のコンセプトを教えてください。
私達の会社では、「75歳以上のおばあちゃんたちに仕事(収入)と生きがいを作る」ことをコンセプトにしています。具体的には、拠点にしている福岡県うきは市及び近隣地域で栽培されている農産物の加工・販売事業や、おばあちゃんたちが昔ながらの料理を提供する「ばあちゃん食堂」の運営などを中心に様々な事業を企画しています。ばあちゃん食堂は現在コロナ禍の影響で休業中ですが、その分おばあちゃんたちが主体となった商品開発に力を入れています。
-事業を立ち上げたきっかけについて教えてください。
僕自身の経験で言えば、若い頃にバイク事故を起こして4年間入院生活となり、心身ともにボロボロになっていたところを、同じ病院にいたおばあちゃんたちが毎日のように話しかけてくれて、精神的に支えられたことで元気になることができました。今度は僕がおばあちゃんたちを元気にする番だ、と思ったことがきっかけです。また、元々はデザイン事務所を経営していたのですが、デザインの仕事は民間企業や団体からの要望に沿った仕事がほとんどでした。より直接的に自分たちの地域のためになることがしたい、おばあちゃんのためになることを仕事で作っていきたいという思いが強くなり、今の会社を立ち上げました。
-今の事業はどのようにして現在の形になったのでしょうか。
今の事業を立ち上げるに当たって、まずは高齢者の抱えている問題について直接話を聞きながら探りたいと思い、市内外の約3,000人の高齢者に聞き取り調査を実施しました。高齢者の無料送迎サービスを行い、買い物など普段の生活の足に困っている方々を支援する代わりに、お話を聞かせていただきました。
そこで多く寄せられた意見が、コミュニケーションを取る場がなくて孤独を抱えている現状や、国民年金の受給だけでは生活が苦しいというものです。一方、高齢者の中には働く意欲がある方も多く、月に年金プラス2~3万円の収入があると楽になると多くの方が仰っていたことから、この額であれば事業化に当たってそこまでハードルは高くないと思いました。高齢者に楽しみながら働いてもらい、同時に地域の経済も回してもらうことができると良いな、と思ったことが現在のビジネスモデルにつながっています。
-なぜ、75歳以上のおばあちゃんたちなのでしょうか。
前述した聞き取り調査の中で、70歳になっても働いている方がいらっしゃる一方、後期高齢者と位置づけられる75歳以上になると誰も働いていない実態が分かりました。「75」という数字には、働く場がない世代を受け入れたいというメッセージが込められています。もちろん、当社では74歳以下の方も元気に働いています。
■コロナ禍での模索
-起業に当たって苦労や不安はありましたか。
自分の場合、全て自己資金で事業を立ち上げたのですが、事業として成立させられるかという不安はありました。また、実際に起業したものの、なかなか計画どおりには進みませんでした。
ばあちゃん食堂を令和2年3月にプレオープンしましたが、4月には緊急事態宣言が発令されて、スタートの瞬間から売り上げの機会を失ってしまいました。自分たちのやろうとしていることは、おばあちゃんたちがテレワークしてできるようなことではなく、本来ならお客様と直接会話して、美味しかったよと言われることで生きがいになる事業なので、その部分ができなくなってしまいました。さらに、女性が多い職場になるので、男性である自分がどのように理解してあげられるかという悩みもあります。実際に私の理解が至らずおばあちゃんに怒られてしまうこともあり、試行錯誤しながら進めています。
―ばあちゃん食堂の休業など、コロナの影響にどのように対応していますか。
元々のコンセプトとして、おばあちゃんたちに生きがいと収入があれば業種は問わないと思っていました。さらに、食堂が休業して以降、おばあちゃんたちが日頃作っている総菜などを商品化できないかと、自ら企画を持ち込んで来てくれるようになりました。彼女たちは、自分たちが作ったものを食べて欲しいという強い想いがあり、私自身も絶対あきらめたくないと思ったことから、加工食品の開発にシフトして事業を続けています。
■おばあちゃんがおばあちゃんを引っ張る仕組み
-大熊さんの事業に参画してくれるおばあちゃんたちは、積極的な方が多いのでしょか。他のおばあちゃんも参加しやすい仕組みをどのように構築していますか。
仰るとおり、当社の事業に自ら参画していただける方は、積極的な地域のリーダーであるおばあちゃんがほとんどです。ゆえに、そのようなリーダータイプのおばあちゃんが他のおばあちゃんを誘いながら、事業を引っ張っていく仕組みを作っています。リーダータイプのおばあちゃんが輝いていることによって、他の同世代の元気がないおばあちゃんたちも元気になり、一緒に働いてみようと思ってくれます。
―おばあちゃんが生き生きと働き続けるためにどのような工夫をされていますか。
例えば、足の悪いおばあちゃんであれば座りながら作業してもらうなど、個人の状況に合わせた働き方を認めています。また、時短労働にして最大でも3~4時間勤務とすることで、体力的な負担を減らしています。
さらに、マネジメントの観点からもおばあちゃんたちのチーム作りを試行錯誤しながら行っています。当社では、75歳以上の方を「ばあちゃん」、75歳以下の方を「ばあちゃんジュニア」と呼んで、若手のスタッフがそれぞれのサポートに付くチーム作りをしています。現在は私達のようなスモールビジネスモデルを各地域に増やしていく取組を他社と協働で展開しており、地域ごとに高齢者が収入と生きがいを得ることができれば嬉しいです。
-地域の農産品を活用した事業に取り組んでおられますが、農業との関わりについて意識していることはありますか。
地域の農産品を使った事業を展開している以上、農業とは切っても切り離せない関係性があります。当社の強みは加工部門に特化していることだと思っています。生産も行っていると、収穫期に加工まで手が回らない可能性がありますが、当社は料理が得意なおばあちゃんたちが手作りで加工することに特化しており、生産や収穫で繁忙期の農家さんの栽培した農産物を商品化しています。また、自分たちの作りたいものを作るのではなく、企業などお客様に何が欲しいかを聞いた上で、求められている商品を作ることも意識しています。
■トライアンドエラーで挑戦し続ける
―INACOMEビジネスコンテストに出場して、主立った変化はありましたか。
ビジネスコンテストに出場したことで知名度が高まり、企業からの視察依頼が増えたほか、新たに大学からの問い合わせが来るようになりました。商品の提供依頼や、事業内容について学生に講演してほしいと言われます。審査員の方やビジネスコンテストに出場した起業者との交流も続いています。
-最後に、大熊さんが事業を展開する上で大事にしている言葉はありますか。
「トライアンドエラー」です。挑戦していれば失敗もする。若い起業者には失敗を怖がる人も多いですが、挑戦することが大事だと思います。また、小学生の時におばあちゃんに言われた「目の前に困っている人がいたら助けなさい」という言葉も大事にしています。
いかがだったでしょうか。INACOMEでは、大熊さんのように、地域課題を解決するために新たなチャレンジをする方々を応援しています!