ものづくり補助金を活用しよう。今回は申請にあたって気をつけるポイントや採択をより得やすくするためのコツなどを説明していきたいと思います。
「そこからかよ」と思われるかもしれませんが、何事も基本が大事ですw。どのような条件に合致すれば応募が可能なのかまず確認しましょう。平成28年度の対象要件は以下のとおりです。
・「認定支援機関の全面バックアップ(ポイント①)」を得た事業を行う「中小企業・小規模事業者(ポイント②)」であり、下記の要件のいずれかに取り組むものであること。
・「中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドライン」で示された方法で行う革新的なサービスの創出・サービス提供プロセスの改善であり、「3~5年で、「付加価値額」年率3%及び「経常利益」年率1%の向上(ポイント③)」を達成できる計画であること。
・「中小ものづくり高度化」に基づく特定ものづくり基盤技術を応用した革新的な試作品開発・生産プロセスの改善を行い、生産性を向上させる計画であること。
ポイントが③つあるので、順を追って説明していきます。
認定支援機関とは正式名称は「経営革新等認定支援機関」といいます。中小事業者の経営改善をサポートするものとして一定の能力が認められるものとして経済産業省の認定をうけたものです。認定支援機関には、ほとんどの市中金融機関、商工会、商工会議所や公認会計士、税理士、中小企業診断士などの士業、経営コンサルティング会社などが登録されています。実際にどういった機関が登録されているかは各都道府県の経済産業局のホームページで確認することができます。
ものづくり補助金の申請書作成には事業計画書の作成が必要であり、市場分析を行ったり、計数計画を作ったり、一定のスキルが求められます。そのような際に、事業計画の作成をサポートしてくれるのが認定支援機関です。
なお、ものづくり補助金の申請書の提出先は各都道府県の中小企業団体中央会になりますが、申請書の際、認定支援機関が事業計画の実現可能性について確認した旨押印した「確認書」を添付することになります。わかりやすく言えば、認定支援機関のハンコがないとものづくり補助金は申請できません。では、どのような人に認定支援機関として具体的にサポートを受ければよいのでしょうか。
自社で相当程度事業計画が書けるなら、取引金融機関に頼むのがよいと思います。ものづくり補助金は、補助額が総事業費(ものづくり補助金で補助対象経費として申請する額。平たく言えば、補助を受ける対象の支払金額)の3分の2となっていること、補助金が設備投資を行った後の「後払い」となっていることから、多くの場合、金融機関から借入を起こすことになるかと思います。
金融機関の営業担当者からすれば融資を実行できる機会が得られますので(もちろん、審査をうけてOKであることが前提ですが)、ものづくり補助金に取り組みたいということであれば、積極的にサポートしてくれる場合があります。ただし、その温度感は金融機関によってまちまちであり、中にはものづくり補助金のサポート部隊を抱えている金融機関もあれば、マンパワー的に対応できない金融機関があるのも事実です。
貴方の取引金融機関がものづくり補助金に対応している金融機関であれば、コンサルフィーの支払いなしで事業計画策定のサポートが受けられるかもしれません。もしも取引金融機関が対応してくれないようであれば、民間のコンサルティング会社や会計士・税理士・中小企業診断士などの専門家に頼むことになるかと思います。
その際の報酬の相場ですが、料金体系は完全成功報酬型のところもあれば、着手金+成功報酬という体系になっている場合もあります。いずれにしても、補助金額に一定のパーセンテージをかけた成功報酬を報酬の中に組み込んでいる場合が多く、相場は10%~25%ぐらいかと思います。
意外と見落としがちなのがこの要件です。中小企業の定義ですが、毎年出てくる公募要領に記載があり、資本金の額と従業員数で業種ごとに定義されます。この記事を読んでいる皆さんはほとんど中小企業に該当するかもしれませんが、ベンチャー企業などで資本金の額が大きい企業や大企業から一定割合以上の出資を受けている場合は該当しない場合もあるので留意してください。
また、株式会社でないとだめかというと必ずしもそうではありません。個人事業主でもOKです。
ただし、社会福祉法人や学校法人などの非営利法人は応募できませんのでご留意ください。
この要件が一番やっかいです。ものづくり補助金の目的は、中小企業における「労働生産性の向上」です。労働生産性とは従業員一人当たりのアウトプットを高めることであり、例えば一人当たりの粗利額や売上高を増やすとか、粗利額や売上高はそのままで従業員1人あたりの労働時間を減らすといったことにつながることです。実際にものづくり補助金の審査にあたって一番重視されるのは「革新性」ではなく「採算性」です。
どんなに革新的なサービスや生産プロセスなどであったとしても、マネタイズできないものは採択されません。
それをうたっているのが、この要件、『「付加価値額」年率3%及び「経常利益」年率1%』なのです。ここで、「付加価値額」とは以下の算式によって算定されます。
付加価値額=営業利益+人件費+減価償却費
この3つを高めないといけないのですが、人件費や減価償却費を増やすと営業利益が同額減りますので、付加価値額は増えません。要するにこの算式は「人件費、減価償却費控除前の営業利益」と読み替えるべきであり、付加価値額を増やすにはいわゆる「粗利額」を増やすか、人件費や減価償却費以外の販売費・一般管理費を減らすしかありません。中小企業のコストの大部分は人件費や減価償却費が占めていることになるかと思いますので、実際には粗利額を増やす、そのためには売上高を増やすか、売上単価をあげて粗利率をあげるしかないということになります。
このものづくり補助金で導入する新サービスや既存サービスの提供プロセスの改善により、「付加価値額が3~5年で年率3%上昇」というのはなかなかにハードルが高いものです。ここでいう「付加価値額の向上」は、申請する事業ではなく、会社全体の付加価値額が向上していないといけないので、ある程度会社にとってインパクトのある設備投資でないと会社全体の「付加価値額」は向上しません。
従って、この要件を満たすためには、「大きな会社がちょびっと設備投資」をしてもあてはまらず、「中小企業がわりと大規模な設備投資」をして初めてあてはまるということになります。なお、年率3%は実際に利益計画を組むとなかなかに大変なことに気が付くでしょう。
実際には年率3%を満たしていなくても事業の革新性や公益性が高いということで採択されたケースがあるようですが、きちんとマネタイズできる事業計画でないと採択されません。
2017年11月23日付の日経新聞において、ものづくり補助金で投資額を回収できているケースは、採択件数の1%にも満たないという記事が出ていました。実際には、ものづくり補助金においてマネタイズできているケースはほとんどないという現状がありますが、こうした現状を受けて、今後の審査の軸足がより採算性を重視していく方向に流れていくことは容易に想像できます。とにかく、マネタイズできる計画であること、これを意識して事業を組立て、計画作りしてみてください。
ものづくり補助金はビジネスについて一定の専門性を有した専門家が審査することになります。仮に事業内容が素晴らしかったとしても、申請書を審査員にきちんと読んでもらえなければ採択はされません。審査員はほとんど手弁当で大量の申請書を短い期間の中で審査することになりますので、審査員に確実に「読んでもらえる」申請書でなければなりません。その際に気を付けたいのは「配点基準に沿った書きぶり」になっているかという点です。
どんなことに、何点の点数がつくかという「配点基準」が公募要領とともに例年公表されます。この配点基準に沿った書きぶりにすることで、審査員は審査表を読みやすくなり、評点がしやすくなります。
例えば一例をあげると、「サービス・試作品等の開発における「課題」が明確になっているとともに、補助事業の「目標」に対する「達成度」の考え方を明確に設定しているか。」という配点項目があるとします。これは、実際の平成28年度の配点基準にある項目で、おそらく平成29年度も同内容が織り込まれると予想されます。
この場合の申請書の書き方は以下の通りとなります。
・本事業におけるサービス・試作品の開発における課題は○○である。具体的には…(あとは詳細な説明を記載。)
・本事業の目標は平成○○年度において○○を達成することである(何らかのKPIに落とし込んだ数値目標と達成時期を明記)。〇〇を達成度の基準としたのは…だからである。(その達成度を選択した理由を明記)。具体的には…(あとは詳細な説明を記載。)
といったように、まず配点項目で聞かれていることを一言で断言してしまってから、具体的な補足説明をするといった文章構成にするというということです。こうすることにより、審査員は配点項目にあることが、申請書のどの部分に書かれているか見つけやすくなり、結果として評点のアップにつながるということになります。
また、こうした文章構成で申請書を書くことを意識することで、配点項目にそった内容が申請書で網羅されているか気が付くきっかけにもなり、事業計画であいまいになっている項目の有無を自らチェックできるようになります。申請書を書く際にはぜひ気を付けてみてください。
申請時のポイント②としては、加点項目を狙いに行くということがあげられます。
加点項目は事業内容に関わらず、一定の事項を行うと必ず配点がくるというものです。平成28年度における加点項目は以下の通りです。
ア.総賃金の1%賃上げ等に取り組む企業
イ.本事業によりTPP加盟国等への海外展開により海外市場の新たな獲得を目指す企業
ウ.応募申請時に有効な期間の経営革新計画の承認を受けている(承認申請中を含む)企業
エ.第四次産業革命型・一般型に応募する応募申請時に有効な期間の経営力向上計画の認定を受けている(認定申請中を含む)企業
オ.小規模型に応募する小規模企業者
カ.省略
キ.IT化に取り組む企業
具体的な配点がどのようになっているかはこれまでは明らかになっていませんが、この加点項目には、仮に満点を100とすると、10程度の配点があると言われていました。
一方で、ものづくり補助金の応募者の多くはボーダーライン上でのせめぎ合いをしているともいわれており、事業内容や申請書の書きぶりに関わりなく一定の配点が確実にくるこれらの「加点項目」を取りに行くのは、採択に向けて大きなポイントとなる可能性が高いと言えます。
この中の、エに相当する「経営力向上計画」に関しては、ものづくり補助金を申請するならば同時に申請しておきたい項目です。「経営力向上計画」とは、一定の設備投資や人材育成をとおして労働生産性を高める計画を作成し、主務大臣の認定を受けるという制度ですが、この経営力向上計画を申請し認定されると、設備投資額の全額の即時償却または投資額の最大10%の税額控除(個人事業主の場合は所得税、法人の場合には法人税)が受けられます。
少し会計・税務テクニカルな話をすると、ものづくり補助金を受けると「益金」が発生する、すなわち収益として認識され、「圧縮記帳」を行わない限り法人税などの税金がかかってしまいます。「経営力向上計画」の認定を受けると「即時償却」や「税額控除」といった節税ができますので、補助金にかかる税金と相殺することができるとともに、ものづくり補助金の加点項目ともなっていますので、ものづくり補助金の採択そのものの可能性が高まるという効果が得られます。
この経営力向上計画に関する配点は加点項目の中でも比較的高いと言われていますので、これを狙わない手はありません。このほか、「オ.小規模型に応募する小規模企業者」についても配点が高いといわれていますので、小規模企業者の定義にあてはまる事業者であれば、補助の上限は低くなりますが「小規模型」で応募するのも、採択の確実性という面では有効かと思われます。
さらに「IT化に取り組む企業」についてですが、この項目への配点ボリュームは明らかになっていません。しかし、ものづくり補助金や経営力向上計画、またIT補助金といった経済産業省主導の労働生産性向上の一連の取り組みに関しては、企業のIT化による労働生産性の向上がテーマとなっているため、この項目への配点ボリュームは高くなると予想されます。
特に、経済産業省は中小企業がEDI(従来は紙ベースだった注文書や納品書、請求書など、企業間で行われる商取引のなかで交換される文書を、標準的な規約(可能な限り広く合意された各種規約)を用いてインターネットなどのネットワーク経由でやりとりすること)を取り入れることを支援していくと言われており、こうした姿勢は平成30年度の税制改正大綱を見ても垣間見ることができます。ですので、ものづくり補助金を通してEDIを導入するという取り組みは評価されやすくなると予想されます。
補助対象経費(補助の対象となる設備投資などの支払い)が、要件に合致しているか今一度公募要領に照らして確認する必要があります。別に要件に合致していなかったとしても、実際の補助金が交付される段階で申請金額から減額されるだけで、採択可能性には影響がありませんが、補助金が思っていた金額よりも減額されるということは心理的にダメージとともに、場合によっては資金繰りに影響があるかもしれません。
ここで一つポイントがあります。それは、仮に要件に合致していたとしてもあまり細かいものは補助の対象として申請しないということです。補助対象経費については、確定検査と言って予め国が定めた手順に沿って発注や契約、支払などの一連の商行為がなされていたか事後チェックを受けることになります。このチェックに耐えられるための書類整備が相当煩雑であるため、中にはその事務負担の大きさから「補助金なんて申請しなければ良かった…」とつぶやく事業者も相当程度いるのが実情です。
こうしたチェックは、原則として補助対象経費の一定金額以上のすべての項目に対して行われますから、あまり少額な経費を補助対象経費として組み込むとそのあとの事務負担が大変になります。ですから、補助対象経費の金額が下がり補助金額は減ってしまうものの、例えば高額である機械本体だけを補助対象経費に組み込むといった割り切りが、事務処理の負担との費用対効果を考えると有効であると考えられます。
以上、ものづくり補助金の申請時におけるポイントでした。