ここ数年の間で、日本を訪れる外国人観光客の数は年々増加しています。JNTO(日本政府観光局)が発表した統計調査のデータによると、2018年12月には訪日外国人累計者数が3,119万人を越えたそうです。来る2020年の東京オリンピック開催の年には4,000万人の目標が掲げられていますが、今の勢いがあれば達成も見えてくるでしょう。この訪日客数の伸びによって、日本各地ではインバウンド需要も高まり、行政や企業などがさまざまな対策を行っています。
また、インバウンドビジネスその中で、地域に目を向けてみると、2018年11月出された内閣府の「地域の経済2018」報告書では、インバウンド需要は急速に拡大しているものの観光地など地域によって偏りが生じているため、全国的な需要拡大をすることを提言しています。地方で何か事業を始めようとする人にとって、「インバウンド」というのはひとつのヒントになり得ます。今回は、地方で起きているインバウンド対策の現状や、参考事例、今後のインバウンドの行方をみていきます。
インバウンド需要はゆるやかではありますが、地方でも波及しています。世界的にみても、他の観光先進国と比較して地方圏の宿泊シェアは低くないということもわかっています。また、地方圏の宿泊者数シェアについては、リピート率によって左右されるという予想がされていて、リピーターであるほど東京や大阪、京都といった人気観光地ではなく地方を訪れる傾向にあります。その理由として「地域独自の体験ができるかどうか」が決め手となっているようです。(引用:2017年の地方圏における訪日外国人延べ宿泊者数は、前年比+15・7%の3,185万人泊と6年連続で過去最高を記録し、そのシェアは40%を超えた。)
(引用:みずほ総合研究所「インバウンド需要の地方圏への波及に向けた鍵は何か」より)
訪日外国人観光客の滞在中の消費額の割合の実に4割は買い物になっていました。中国人の観光客が日本製品を大量に購入して自国に持ち帰る「爆買い」という言葉も出たほどでしたが、リピーターの間では「モノ消費からコト消費」へとシフトする流れがおきています。豊かな自然や温泉など、その地だからこそ経験できることを選択して、楽しむ傾向がリピーターにはあります。体験できるサービスの企画開発といったことがこれからも需要として伸びていくといえそうです。
地方でお金を消費するきっかけをつくることができれば、地方を活性化させることにもつながっていきます。観光的な側面からみていますが、「インバウンド」は地方で起業やビジネスを考える人には、十分事業ドメインのひとつになってくるでしょう。
行政や企業はそれぞれ、すでにどのような取り組みがされているのでしょうか。いくつか事例をあげてみていきます。
・宮崎県高千穂
「神話」をテーマに、まちのブランド戦略をしています。2017年には宿泊予約サイトの秋の伸び率が、県別で全国2位となった宮崎県高千穂では、高千穂には日本の神々ゆかりの「天岩戸神社」や「天安河原」などの名所が存在しています。テーマを絞り、徹底してプロモーションをしたことで、外国人観光客の増加という結果をもたらしました。県が神話によるプロモーションでインバウンド向けにパンフレット制作を行っています。
・島根県
外国人観光客の受け入れ態勢を整えています。
①補助金
ー「外国人観光客誘致事業補助金」では外国人観光客誘致のために、パンフレット制作や先進的な取り組みをしている地域の視察、wi-fiや免税店整備といったことにかかる費用について助成を受けることができるようになっています。中小企業や小規模な店舗なども活用できる補助金です。
ー「外国人観光客送客促進支援補助金(バス助成)」では、県内に宿泊する海外の団体旅行を支援するもの。台湾、香港、中国、東南アジアといった諸外国でツアーを行う旅行会社に、貸切バス1台につき5万円の助成が行われるといった補助金になっています。
②サポート制度
団体旅行や個人での受け入れに向けて、島根県と合同で「山陰地域限定特例通訳案内士制度」を取り入れるといった取り組みもされています。団体旅行を組む旅行会社、外国の友人を受け入れる個人でもサービスを利用し、訪れてくれた外国人観光客をしっかりともてなすことを可能にする取り組みです。
③発信を配信
「一般社団法人 山陰インバウンド機構」が運営する「山陰インバウンド機構公式サイト 緑の道~山陰~」の公式ウェブサイトでしょう。山陰地方の観光ガイドメディアですが、英語・韓国語・中国語(繁体字、簡体字)・タイ語など8か国語の多言語対応によって公式ウェブサイトで外国人観光客に向けたさまざまな情報を発信しています。
また、ドローンを活用して撮影された動画をYouTubeで発信もしていて、世界中の人々にその土地ならではの魅力を伝えることに成功しています。
徳島県祖谷地域の茅葺き民家ステイの運営・管理やその他地域でも宿泊事業、ワークショップ、イベントの開催、体験プログラム、地産品、オリジナルグッズの販売などを手掛けている会社です。地域資源を生かし、日本古来の風景や暮らしを体験できることが外国人旅行者にうけています。
アジア全域のツアーガイドをすることができるルガシ アブラハム氏が、イスラエルから日本にやってきて立ち上げた、フルカスタマイズのオーダーメイドツアーを企画運営する会社です。日本らしく、本物志向なツアーが反響を呼んでいます。
これから地方におけるインバウンド需要は高まっていくと予想されています。その中で「コト消費」という点に注目をして、その地ならではのサービスや事業展開をしていくと、可能性が広がっていきそうです。
そして実際の行動までには、
①地域やスポットを認識する
②興味関心が高まる
③調べる
④体験する
というステップを踏んでいきます。その過程に発生する事柄を見つけ、事業を行うことはできるでしょう。普段の何気ない光景が、外国人にとっては魅力的に映ります。地方だからこそできる、オリジナリティのあるものを提供できると事業の可能性は広がっていくといえそうです。地方×インバウンドでのビジネスによって新たな魅力を発見する仕事をすることができます。地域にも外国人観光客にとってもいい影響をもたらすインバウンド事業は今後ますます需要は高まっていくでしょう。地方起業を検討する方はぜひ注目してみてください。