地方で起業を行う上で見逃せないのが、近年急速に成長・拡大しているインバウンド市場です。2000年を境に増え始め、各都市の経済効果が高まったことにより多くの地方都市からの注目も集めており、さまざまな地域からの誘致が行われています。ここではインバウンドに関する詳細に加えて、自治体・企業の動きや注目すべきポイントを解説していきます。
インバウンドとは
インバウンド(inbound)は、もともと「外から中へと入る、内向きの」といった意味合いを持つ形容詞です。マーケティングやITなどさまざまな分野で用いられる言葉ですが、観光・旅行業界では主に海外から日本国内に人が入ってくること、すなわち外国人が旅行などで日本に来訪することを指します。インバウンドの対義語として、日本から海外へと旅行することを意味する単語・「アウトバウンド(outbound)」も近年使用されるようになりました。
ゴッホをはじめとした印象派画家たちに多大な影響を与えた浮世絵や、有田焼や九谷焼といった陶磁器などさまざまな面で海外から注目を集めていましたが、本格的にインバウンドが高まり始めたのは2000年代に突入してからです。観光業界における民間企業の活動や運動によって2007年の観光立国推進基本法の施行がもたらされた結果、翌年には観光庁の設置にまで至りました。その後も国と企業が各地で振興策を実行することで、2005年時点では年間約670万人であった外国人旅行者が10年後には約3倍にまで増加するほどに急成長を遂げています。
地方の関心も高まりつつあるインバウンド
インバウンドが多く訪れる場所として東京や大阪といった大都市の他に、観光都市である京都も主流であるのは大きなポイントです。これによって都市部だけでなく、歴史ある神社仏閣や桜・紅葉など有力な観光スポットにも大きな集客力があることが分かります。その証拠に沖縄や福岡、北海道といった地方都市および観光地へ訪れる外国人旅行者も年々増加傾向にあります。特に青森や宮城などの東北地方、熊本や宮崎などの九州地方は近年大きな伸び率を見せており、インバウンド市場の活性化が顕著なエリアです。 ますます増え続けるインバウンド客を取り込むべく、該当エリアの宿泊業や飲食業界では外国人旅行者を意識した対策を行っています。
観光庁の2015年の発表によれば、インバウンド客の1人あたりの平均的な支出額は約17〜18万円となっており経済効果が非常に高いからです。具体的には両替所の設置や免税、多様な言語への対応などが対策例として挙げられます。観光業だけでなく、エリア内の百貨店やショッピングモールといった小売店などさまざまな店舗・施設が潤うため、さまざまな分野の企業が注目しています。
多くの外国人が日本へと来訪するようになった現代において、どのようにして地方に誘致するかが大きな鍵です。外国人旅行者は地方に訪れてたくさんお金を使ってくれる「単価の高い客人」であるため、自治体も地方の企業もできるだけ多くのインバウンド客を取り込みたいと考えています。自治体と企業が一体となって、外国人を意識したマーケティングや集客方法を構築していくべきです。
「外国人が魅力を感じるようなコンテンツ作り」がポイント
年々増加していくインバウンドに向けて、全国各地で観光スポットや特産品のPRの盛り上がりを見せています。高まる需要を見越して、インバウンド市場に特化した企業を立ち上げて業績をあげている起業家も居るほどです。自治体もますます加熱するインバウンド市場とそれがもたらす経済効果に注目しており、起業家・経営者に対しても協力的な姿勢を見せている今が大きなチャンスと言えます。
先駆者によって既に土地も資源も手をつけられてしまっている都市部とは異なり、未着手な部分の多い地方はブルーオーシャンとなり得るでしょう。 ただし闇雲に地方で起業しても、大きな利益を得ることはできません。マーケティングの基本は買い手、つまり外国人旅行者のことを深く知ることです。どういったコンテンツに人気があり、消費してもらえるのかを把握することが起業のヒントとなります。
たとえば自分が旅行で日本の観光地に訪れた時や、海外旅行に行った際に現地で何を求めるのかを考えてみるのも良いかもしれません。外国人旅行者が魅力を感じて、訪れたり体験したりしたいと思わせるコンテンツ作りを心がけることが大切です。まず地方におけるインバウンド市場の人気が、観光地とグルメの2つが主体となっている点に注目しましょう。
特に観光スポットの中でも伏見稲荷大社や清水寺、伊勢神宮といった宗教にまつわる寺社の人気が高いです。高度な教育を施す欧米の大学では、多種多様な価値観に触れるために自国はもちろん他国の文化や宗教を積極的に学ぶ傾向にあります。そのため歴史的価値の高い建造物や、思想・哲学的な知識に触れることができるスポットに多く訪れるというメカニズムです。また日本人と同様に、異なる文化に触れて楽しむという目的でも訪れています。その国特有の山林や植物、地形や都市形成など独特の文化や気候による変化を堪能したいという気持ちは万国共通と言えるでしょう。
もう一方の「食」に関しても、元より世界各国から注目を浴びています。日本人にとって和食は味付けや四季による食材といった面をアピールしがちですが、海外での和食の位置づけは「健康食」です。腸内を健康にする発酵食品やお米、野菜や魚など栄養価が高くヘルシーな食材を用いた料理が多いため、海外での評価は高いです。もちろんナチュラルかつ繊細な味付けを楽しむことができるのも魅力の1つと捉えられており、和食の味付けのファンである外国人が多いこともその理由として挙げられます。
このように、海外からどのような目で見られているか、どのような要素が求められているかという点をじっくり考えた上でコンテンツ作りに挑みましょう。この時注意したいポイントは、「自分の国の魅力は自分たちではなかなか気付きにくい」という点です。日本の急速なインバウンド加熱は、温泉に入ってくつろぐ猿(スノーモンキー)がきっかけとされています。富士山やお祭りなど日本特有でありつつ華やかなコンテンツの方が外国人の受けが良いと思いがちですが、日本に求めるコンテンツはインバウンド1人1人違うのです。人気のある場所や物に注目するだけでなく、普段日本人が気にも留めない素材ほど大きいコンテンツへと成長するかもしれないという、広い視野を持つことが重要です。