地域で活躍する多様な起業家を特集するこの企画。昨今I/U/Jターンに関心が集まっていますが、実際に地方に移住して起業するまでにどのような経緯があるのでしょうか。今回は都会から全くゆかりのなかった徳島県(つるぎ町に移住、お隣の美馬市で起業)美馬市に移住して起業した「AWA-RE」代表取締役の榮高志さんにお話を伺いました。
訪れた人のストーリーを制作する
―まず始めに、どういった事業をされているのでしょうか。
榮)去年の4月に「株式会社AWA-RE」という会社を徳島県美馬市に旅行業として立ち上げました。また旅行業以外にも映像制作、ゲストハウスの運営、教育関係事業など、多岐にわたって活動を行っています。
―かなり手広く事業をされているのですね。今は何人で運営されているんですか?
いまは4人ですね。経営陣が私含めて3人。それぞれ地域おこし協力隊をやっていたのが創業当初からのメンバーです。もう一人はアメリカ人のスタッフが11月から入りました。彼は元々映像制作をやっていて。10月に映像制作の仕事を一緒にした時に、非常にいい腕だったんですよ。その時彼は別の会社で働いていたのですが、タイミングも合って一緒にやりましょうということになりました。元々はこっちの学校でALT(外国語指導助手)の先生をしていたみたいで、美馬市とも縁はあったみたいです。
―どういった動画を作られているんですか?
例えば外国人観光客に向けて制作した、美馬市周辺が舞台のプロモーションビデオです。
弊社の共通しているコンセプトは、動画の最後のナレーションにもある”make it yours ”「あなたの物語を始めましょう」というものです。映像制作も旅行業にしてもゲストハウスにしても、このmake it yoursというのが一貫した一つの軸になっています。なので一見バラバラの仕事をしているイメージではあるのですが、その軸だけはブレさせないようにしています。
―そのコンセプトをどのように事業に落とし込んでいるのですか?
”地元の物語”というものをしっかり伝えられるようなツアーをする「ストーリー制作会社」を目指しています。一般的な旅行だと二次交通にバスやタクシーなどを利用しますが、結局それは観光地を点と点で巡っているだけなんですよね。それも悪いわけではないのですが、実際に我々が現場に入った時に「なんかもったいないな」と感じたんです。そこで我々が目指す物語を、お客さんにとっての旅の付加価値として持って帰ってもらうということを考えたときに、自転車を使ったサービスをやろうと思いました。

ファッショナブルなイギリス製の折り畳み自転車
この自転車は見ての通り折りたたみ自転車なのですが、英国製で足というよりファッションアイテムに近いものです。これは袋にも入れられて、そのまま列車にも乗れます。だからバスで決まったところを行くのではなく、最寄りの駅までは列車でいって、そこから自転車であなたの物語が始まるという体験を提供したいなと考えています。
我々の言うストーリーとはリアルな体験です。youtubeやHPでキレイな映像をみても所詮はフィクションの世界。実際にその現場に立ってみると全然違うんですね。そこが旅の醍醐味になるのだと思っています。観光地ではないけど、地元のおばあちゃんが家で採れた農作物を出店で販売しているところに話しかけたり。
そういった人の暮らしのリアル、息遣いに旅の面白さがあるのだと思います。
―旅行業自体はなぜ始めたのでしょうか。
事業を立ち上げるまで、地域おこし協力隊で観光関係の仕事をしていました。その時のパイプや人脈があったことや、地域にガイドが足りないという状況で必要に迫られたこともあり、旅行業での起業を決意しました。
―地方だとプロモーションムービーの撮影や、自転車サービスなどの新しい取り組みに対して非協力的な方も多いのではないでしょうか。
そんなのはもう付き物です。でも、そのあたりはあまり気にせずにやっていますね。実際に評価してくれるのはお客様ですので。その中で、面白いと思って声をかけて頂けたら少しずつ輪は広がっていくので、そこを大事にしています。自分のやりたいことや、確実に人が集まって面白いことをやっていくことが大切だと思います。


折り畳み自転車(Brompton)でのツアー
自分にとってのリアルな世界とは
―協力隊に入る前は何をやられていたのでしょうか?
私は大阪の出身なんですが、高校を卒業した後は芝居の勉強のためにアメリカに1年間留学していました。その後、東京に移ってからは13年ほど俳優事務所や劇団で、演技論などを語りながら芝居の仕事をしていました。でも、2011年の3月に東日本大震災が起きて、テレビの前で自衛隊や消防隊やボランティアの方々がリアルな社会と向き合っているのを目の当たりにしたときに、何もできなかった自分がいました。演劇って結局フィクションの世界なんですよね。どんなにリアリティを追求しようとしても本当のリアルには勝てない。
被災した人たちが助け合っている一方で、私は自分のためにしか生きていなかったわけです。普段つるんでいる仲間といってもオーディションだったら蹴落とさないと自分が生きていけません。そこで自分は社会に対して何ができるんだろうと考えるようになりました。それと同時に自分自身が求めているリアルな現場ってどこなんだろうと疑問を持ち始め、2011年から4年ほど東京で社会起業のビジネススクールに通ってみたり資格を取ってみたりと行動をはじめました。
でも、どこかで軸がずれているような感覚があったんです。そんな時、通っていた「社会起業大学」というビジネススクールで、実際に現場にいって何が起きているのかを学ぶというスタディツアーがあり、陸前高田市に行くことになりました。陸前高田は津波で街が全部飲み込まれて無くなってしまった港町です。2015年の6月に行ったのですが、その時点で被災してから4年が経っていたにも関わらずまったくの更地だったんです。

陸前高田に訪れたときに撮影。ほとんど更地の状態であることがうかがえる。
ほかにもテレビでは既に原発問題以外は報道されず特に問題はないと思っていたのに、実際に現場に立ってみると問題が山積していました。そんな中、社会起業大学に震災の3日後に現地入りした先輩がいたのですが、その方は現地でNPO法人を設立していたり、現地の議員になって活動をしていたりと、最前線の現場に立たれていたんです。その時に私も自分自身の現場を見つけたいと感じました。
―なるほど、それで移住を決意されたんですね。徳島を選んだのには理由があるのでしょうか?
実際にどこが自分に合っているのかと思ってイベントなどに足を運んでいた時、偶然、徳島県の美馬市が傾斜地農業で世界農業遺産登録への取組みをしているという話を聞いて、すごく面白そうと思ったんです。ここなら自分のリアルを見つけられると直感しました。結局はその時に出会った人とのご縁と、「面白そう!」という勘だけで徳島を選んだんです。
苦労あっての成長

2015年11月 徳島県つるぎ町に移住
―協力隊として徳島に来た時、地元の人の反応はどうでしたか?
概ね歓迎してくれていた感じですが、「おまはん、こんな山奥に何しにきたんぞ?」と聞かれることもありました。
―協力隊に入ってからたくさんの苦労があったと思いますが、なぜこの土地で起業しようと思われたのでしょうか。
もともとビジネススクールに通っていたこともあって、何らかの形でこっちで起業することは目指していたんです。なので、この土地に骨を埋めるくらいの気持ちでこの地域にきました。地元の人にはできない自分だからこそできること、そしてここでやるからこそ見出せる自分の価値や意味を追求しようと考えていた時に、同じような立場で近隣の協力隊をやっていた人達と話す機会がありました。全員それこそ出自がバラバラですけど、関わっていくうちにこの人達とならなんか面白いことができそうと思ったんです。それが徳島で起業しようと思ったきっかけですね。
苦労や困難は確かに来るときは来るし乗り越えるのは大変です。でも振り返った時にそれがないと成長はなかったなとも思うし、自分の軸は持ちつつも、あまり”流れ”に逆らわないようにしています。結局人生って選択の繰り返しで、やるやらないの道しかないんですね。後ろに戻るなんてことはできないわけです。だから起きたことは素直に受け入れて進むということを考えると、苦労も一時的なものだし、結果それを乗り越えられたら自分が成長できます。そういう意味では苦労も来てくれないと困りますよね。
自分の直感に素直になってやってみる!
―事業をされるうえで大切にしていることはなんでしょうか。
直感に従うことですね(笑)移住してきたときもそうでしたけど、常に自分自身の頭ではなく魂が動かされるかどうか。頭で「この人と付き合ってたらお金になりそう」とか「なんかこんなところ行ったら良いことあるんじゃないかな」とか、考えて行動した場合は大抵ろくなことが起きません(笑)その代わり、周りがいくら反対したとしても「絶対これは面白い」と感じるものにコミットしたら、どんな形であれ面白い結果がついてくる。そういった意味で、起業家はその直感とコミット力で動かないと絶対に前に進みません。
そこをリスクととらえるのかチャンスととらえるのか。多分日本人の9割以上はそこをリスクととらえてしまう。別にそれを否定しているわけではないのですが、起業するなら面白いほうを選ぶべきです。もちろん自分自身、数年後にこの会社を畳んでいるかもしれません。でもそのおかげで10年後とかに、もっと面白いことができているかもしれない。そんな時に、じゃあ会社を畳んだのは失敗だったのかといわれると、そうじゃないと私は思います。だからよくビジョンとかを聞かれたりもするのですが、返答に困ることも多いです。その時の直感で動いてるだけなんで(笑)
―最後にこれから地方で起業したいという方に向けてアドバイスを頂けますでしょうか。
松下幸之助じゃないですけど、「やってみなはれ」ですね。とりあえず面白いと思ったことはやればいいと思うんです。何か失敗したとしても、そこだけ見れば失敗なのかもしれませんが、長い目で見ればその失敗があったからこそ、次の成果につながったといったこともあるでしょう。そんな簡単に一発でうまくいきませんよ。常に改善です。