地域で活躍する多様な起業家を特集するこの企画。今回は奈良県を代表して、バスハーブ「jiwajiwa」を販売している、チアフル株式会社代表の松本梓さんにお話をお伺いします。元々は大手住宅メーカーに勤務し、突如起業することに至った松本さんだからこそ話せる起業論について探っていきます。

起業のきっかけはテレビ番組
―まずは松本さんの会社の概要をお伺いさせてください。
松本)こんにちは、チアフル株式会社、代表の松本梓です。チアフル株式会社ではjiwajiwaというブランド名で「お風呂のハーブ」という商品の企画販売を行っています。この「お風呂のハーブ」は、奈良県産自然素材だけを使用しているので、自然の香りと癒しを体感できると好評です。これまでに5種類販売しています。また最近、合成着色料や香料・防腐剤を一切含まない無添加石鹸の販売も開始しました。奈良吉野ひのきを使った石鹸なので、こちらもゆったりとしたお風呂の時間をアシストしてくれます。


ゆったりと安らげるバスハーブ、jiwajiwa
ーいつ頃から起業について考えるようになったのでしょうか?
起業する前は、神戸大学の法学部を卒業後、大手住宅メーカーに就職して働いていました。その企業で3年間営業として働いたのちに、本社の宣伝部に所属することになります。そこではブランド戦略管理部門に所属していたのですが、全国を出張する機会がありました。都内への出張に度々行って気づいたのですが、都内ってたくさんのお店があって、人がいて華やかだけど、どことなく疲れている雰囲気があると感じたんです。
なら、地方はどうなんだと考えてみた時に、地方には地方らしいお店はあまりなく、チェーン店が目立っているんですよね。その土地の魅力を感じられる場所は既に廃れつつあると感じました。全国出張のタイミングで都内と地方のギャップを経験して、どうにかこの2つを繋ぐことはできないかな、と問題意識を持つようになりました。このことがきかっけで、これまで興味がなかった地元について興味が出て、もっと奈良県のことを知りたいなと思いました。
この体験は非常に重要なものとなりました。都内と地方のギャップについて考えを膨らませている時に、転機が訪れます。それは、とあるテレビ番組をみていると、「地方から日本を元気に!」と謳っている企業を見かけました。その番組を見て直感的に、「あ、この企業面白そうだな」「一緒に働いてみたい!」と思ったんですよね。その企業のホームページを確認してみると、「起業家を募集」との文言が。「え、いきなり起業家!?」とも思いましたが、その企業に応募書類を出し、面接なども無事通過。どのような事業を起こすかもプレゼンしたところ、トントン拍子で出資を受けられることになり、起業家になることが進んでいったのです。選考を通過してから1ヶ月間の猶予をもらい、本当に今の会社を退職し、起業するのか、悩みに悩みました。
考え抜いた結果、「やらないと後悔するな」という想いが強く、起業家としての人生を歩んでいくことに決めました。当時の私はまさかこんな形で起業家になるとは夢にも思っていなかったので、「気がついたら起業していた」というほうが正しいかもしれません。
初めての起業は未知と苦労の連続
ーテレビをきっかけに起業したというのは珍しいのではないでしょうか!実際に起業してみていかがでしたか?
起業するといっても、何をしたら良いか全くわからなくて。起業に関する知識もなければ勉強もしたこともなかったので、苦労の連続でした。住宅を売っていた経験はあるものの、小売り事業の経験もなければ、商品開発の経験もありません。応募書類として出した企画書には「奈良県から靴下を届ける」というコンセプトを書いていたのですが、既に靴下事業は競合他社がひしめく業界で、私の参入するポイントはないと気づきました。
そこで、一体何をやるのが良いんだろうと悩むこと数ヶ月。以前私が感じた「都会と地方のギャップ」を思い出したんです。都会の人は、華やかな世界に生きているのに、どことなく疲れている。そんな人々に、地方から安らぎを与える商品を届けたい。こう思ったんですね。
私の中で、1日のうち最も安らぐことができる時間はズバリ、お風呂の時間です。1日頑張った疲れを癒してくれていたのがお風呂でした。このお風呂の時間をもっと良いものにできる商品を作れば、日々の疲れから解放される人が増えるのではないかと考えました。お風呂の時間を豊かにしてくれるものの代表例といえば、入浴剤です。そこで、奈良県の素材を用いた、自然派入浴剤はどうだろうかと考案し、入浴剤メーカーに取材にいきました。そこで大量の入浴剤が機械で量産されているのを見て、私がやりたいことと違う感じがしました。どことない違和感があり、せっかく商品を作るなら、真心を込めて丁寧に作りたいと思いました。

奈良県は薬草の産地として有名
奈良県産の自然素材って何があるんだろうとリサーチしていると、奈良県は薬草が有名な土地であることを知ります。昔の人達は、体調が優れない時は薬草を満たしたお湯に浸って、体調を整えていたそうです。「あ、これだ」と思いました。このあとは原材料の仕入れ先の確保やパッケージのデザイン、可愛い巾着型の布の中に奈良県産のハーブを入れるという構想があっという間に固まりました。構想から半年で商品開発を終え、販売までたどり着きましたね。
jiwajiwaに込める想い
ーわずか半年で販売開始はすごいですね!jiwajiwaが他の入浴剤と異なる点というのは何でしょうか?
先程紹介した、奈良県産のものを使用していることや、入浴剤を巾着状にして、購入した方々が少しでもウキウキしてくれるような工夫をしています。また、こちらは消費者の方々からは見えない点なのですが、商品の生産方法にもこだわっています。巾着のなかにハーブを詰めて、巾着を結ぶという工程は機械には難しいですし、大量生産に耐えられるだけの原材料の入手は困難です。
そこで、jiwajiwaは大量生産せず、1つずつ丁寧に作ろうと思いました。例えば巾着を結ぶ工程は、完全に人力で行なっています。最初はこの作業を内職屋さんに頼もうかと考えましたが、ふと、自分の母親が障害者施設でボランティアしていたことを思い出しました。せっかく私が物作りをするのであれば、障害者福祉施設の方々もご協力いただいて、一緒に商品を作っていこうという発想に至りました。

jiwajiwaはひとつひとつ、手作りで作られる
自分たちが丁寧に作った商品が、実際に百貨店や大手セレクト系書店などで販売されて、人々の生活を豊かにしていることを体験できるのは、障害者の方々にとっても喜びとなっていると聞いています。jiwajiwaを届けるまでの過程で、就労弱者の方々を勇気付けられるような活動を行なっているというのは、他の商品にはない特徴かと思いますね。
ー商品ができるまでの全ての工程に、松本さんの想いが詰まっているのですね!素晴らしい商品を作るまでは様々な苦労があったかと思います。
知らないことだらけの世界に突如参入したので、苦労はたくさんしましたね。失敗ばかりしているように思います。どうやって乗り越えているかというと、どんなときも諦めない気持ちを持って取り組むことです。強い気持ちを持って行動していると、困った時に人は助けてくれますからね。また起業した当初は、「自分でなんとかしなきゃ!」と躍起になっていました。
これは良くなかったです。自分一人でできることなんてたかが知れていて、すぐに限界がきてしまいます。そこで「みんなの力を借りよう」という発想の転換に至ってからは何事もうまく進むようになりました。こうしていろんな人を頼って、いろんな人を巻き込めるようになると、成功する確率も上がるし、ヒントを得られるスピードが上がります。こうして、事業そのものを助けてくれる仲間や立場を同じに考えてくれる起業家仲間、が増えていき、数え切れないくらい助けられました。そのおかげで今があると思います。
起業に大事なのは準備、そして行動力
ー確かに、個人ではアイディアも行動できる範囲も限界がありますよね。今後の展望をお聞かせください!
今後の展望としては、「ものを売ることの先」を見据えていきたいと考えています。地域の農林産品に新しい販路ができ、就労弱者の方々に誇りある仕事を創出することです。私たちの活動が成功を収めれば、他府県に展開しやすいロールモデルができます。そうすると、より多くの原材料の生産者や就労弱者の方々を支えることもできるし、商品を通じて安らぎを得られる人数も増えるでしょう。こういった関係人口を増やして、もっと大きな活動にし、多くのひとに安らぎの時間を届けたいと思っています。
ー最後に起業家を志す若者にメッセージをお願いします。
これから起業を志すのであれば、しっかりと準備をした上で起業して欲しいと思っています。なぜなら、私はあまり準備しないで起業し、後悔している側面があるからです(笑)具体的には、起業にまつわる書籍を読むことと、起業家の人の話を聞きにいくのが良いと思います。日本全国、探せば起業家向けの公演はたくさんあるので、人に会う機会はあるし、ネットに落ちている情報から学ぶのでも良いと思います。そしてある程度の準備・勉強ができたら、あとは悩まず起業してみてください。もちろん机の上での勉強も必要ですが、まずはやってみるのが大切です。そこからフィードバックを得て成長していけば良いのですから。過去の迷っていた自分には「やりたいと思うことがあったら、とりあえず腹をくくってやれ!」って言いたいですね。
執筆者:戸谷豪志