地域で活躍する多様な起業家を特集するこの企画。愛知県で様々な「ひと」「もの」「しくみ」を混ぜ合わせて、新しい感動を創造する地域の実験場「いるかビレッジ」を運営している渡辺潤平さん。既存の固定概念にとらわれずにどんどん新しい”当たり前”を生み出す秘訣をうかがった。

ー渡辺さんが行われている事業の紹介をお願いします。
さまざまな事業展開をしているので、言語化できない部分もあるのですが…。ざっくりいうと、なんらかのハンデを抱えていることで活躍の場に巡り会えなかった人が、その属性や特性を活かせる場を創る「いるかビレッジ」という活動をしています。立ち上げ当初は外国人を対象に事業を行っていたのですが、現在は子育て中のママ・シングルマザー・若者・障害者・高齢者など、多様な人材が活躍できる居場所つくりを行っています。
他にも、就労支援の実施、小学生から社会人までを対象とした次世代の人材育成を意識したインターンシッププログラムなど、地域づくりを実施してきました。例えば、日本で唯一の「心に傷を負った外国人の為の社会復帰に関わる支援」の実施や、「子育て中のママが、赤ちゃんを連れながら働くことのできる介護デイサービス」、「孤立しがちな子育て中のママが赤ちゃんと一緒にランチを楽しみながら、情報収集を行うことができるカフェ」などがそれです。元々は外国人の就労支援のために取り組んだものが、結果的に社会から取り残された様々な人々の可能性を再発見する事業へと変化してきました。

起業のポイントはここに『楽しい仲間』がいたから
ー起業されたきっかけは何だったんですか?
僕の場合は、ここに『楽しい仲間がいた』ことが起業のきっかけです。『なにをやっても楽しい仲間となら、なにをやっても楽しい。どんな仕事でも辛いことでも。』と思っています。僕は昔から「楽しいことをやりたい!」という想いは常にあったのですが、具体的に何がやりたいのかは自分でよく分からなかったんですよ。ただ漠然と『なにか楽しいことがやりたい』というイメージを持っていたんです。
僕が19歳の頃に地元函館の和太鼓集団『ひのきや』のメンバーの講演があったんです。代表の人が起業の経緯について話していて、その時聞いた内容が、今も頭の中に残っているんです。『私は、なにか楽しいことをしたいといつも思っていて、大学では「なにか楽しいことをやるサークル」を結成しました。様々な活動の中で気づいたことは、”楽しい仲間”となら何をやっても”楽しい”ということです。そして、たまたま和太鼓が得意だったので、楽しい仲間とそれで飯を食ってみようかとなって、今があるのです。』僕にとって、この話は衝撃でした。自分がどうやって楽しいことを見つければいいか教えてくれた気がしたんです。その後僕は豊橋の大学に通ったのですが、ひょんなきっかけで日系外国人の学習支援をすることになりました。
他の大学のメンバーと集まり、さまざまな支援活動を行いました。その最中は気づきませんでしたが、今思えば、自分でも驚くくらい夢中になっていたのだと思います。支援活動が楽しかったというより、仲間と一緒に一つの目標に向かって活動しているのが楽しかったんです。そして、気づけばそこは僕の居場所となっていました。この経験から、『楽しい仲間とだったら何をやっても楽しい』ということを身をもって実感しました。そして、その”楽しい仲間”と一緒に活動をしながら飯を食えるようになりたいと思い、在学中に会社とNPOを設立しました。
ーなぜ『愛知県豊橋市』という地域で活動されているのですか?
地域に関しては入念にマーケティングをしてとか、市場調査してとかそういうので選定したわけではないです。僕は北海道の出身なのですが、大学進学で豊橋市にくることになったんです。その時に地域の課題に触れたのがきっかけですね。地域柄、製造業に従事する日系外国人が多く、その子供達の教育や進学就職が不安定で、でもその子たちも多様な将来像を描ける社会が必要だなと感じたんです。その課題を解決したいと思い、この土地での起業を選びました。

ー実際に事業を始めてみて、うまくいかなかったことや苦労したことはどんなことがありましたか?
いるかビレッジの良さは、「ゆるくともしっかりとした繋がり」です。この部分が崩れてしまわないようにするのには苦労しました。マニュアル化できるものでもないので、共有するの難しいんですよね。しかし、事業として拡大していく上ではある程度、マニュアルのようなものが必要な場面が出てきまいます。でも、決まりを作ってしまうと、いるかビレッジの良さが減っていってしまう恐れがあります。そこのバランスを取るのは本当に難しくて、今でもどうするのが良いのか悩みながら運営していますね。
あとは、今までの常識を覆すような取り組みをしているので、関わる人々の”固定概念”を壊すのは難しかったですね。いるかビレッジでは、介護、保育、就労支援、パーマカルチャーガーデンなどを行っています。例えば、介護の仕事と一口に言っても、見守り・送迎・レクリエーションの準備・食事の配膳下膳・排泄の支援などさまざまな業務が仕事としてあります。働く人はその全てをマルチにこなすことを前提に雇われているんですよね。でも、障害を持っている人はどうしても苦手な業務があって、全てをできるようにするのは非常に難しいんです。
ただ、全ての業務ができないわけではなく、業務によっては他の人よりも素晴らしい能力を発揮する人もいるんです。でも、雇う側は全ての業務ができるのが”当たり前”と思っていて、そういった人材を企業が求めているんですよね。僕は、それ自体が違うと思っています。「一人一人に適した仕事を適した量でやってもらう」という仕事の分け方、作業分担をしていきたいんですよ。
できないところだけを見るのではなくて、できているところに目を向けることが大切なのではないかと思うんです。また、ひとりひとり得意なことを割り振った方が全体としても効率が良いのではないかと考えています。
でも、「我慢してでもやる。苦手でもやる。仕事なのだから、我慢してやりましょう。」ということが”当たり前”だという雰囲気がまだまだあります。この”当たり前”という雰囲気を崩していきたいんです。これは障害を持つ人だけではなく、社会に生きづらさを感じている人(仕事ができない、と悩む人など)が少しでも楽になり、「自分は◯◯ができる」という自己肯定感が上がっていくことに繋がると考えています。僕はそんな社会になることを目指しています。

ー渡辺さんが思う、地域での起業の良いところ、悪いところはどんなことがありますか?
個人的には、地方の方が動きやすいような気がします。あまり大きい都市で活動したことがないので分からないのですが、規模的に大きい街だと動きづらいような気がします。悪い部分をいうと、閉鎖的な土地柄の地域でしょうか。時に動きづらさを感じることもあります。でも、そういった面も含めての、地域での起業ですが。

ー地域だけで利益を作り続けることは難しいと思うのですが、いかがですか?
僕は地域だけで商売を行うことに対して限界があるとは思っていません。人それぞれの価値観があると思いますが、僕はお金を稼ぐことが全てだとは思っていないので。「生きていく上で、自分にとって最低限必要な分だけ稼げば良い」という考え方が良いと思います。最近よく生きる力をどう育てるかについて考えています。いるかビレッジの利用者の方には、お金=数字に捉われずに生き抜く力を身につけてほしいと思っています。

ー地域外の人との繋がり方や情報収集などは、どのように行なっていますか?
主にSNSを利用して、情報発信や受信を行なっています。あとは、関わってる人それぞれの所属しているコミュニティに対してもそれぞれが情報を出しているので、実体的な広がりも作ることができるのかなと思っています。
ー最後に、今後起業を考えられている方にメッセージをお願いします。
社会問題を解決したいとか、社会貢献したいとか、そういうのは、あとから考えればよくて、大事なことは、「没頭」することだと思います。事業は、自分が一緒に仕事をして楽しいメンバーで進めると、きっといいことがあります。僕らは、孤独だけどひとりではない。
目いっぱいの妄想と見切り発車の行動で突き進み、ふと振り返ると道ができている。そんなふうに毎日を過ごしていけたら幸せだろうなと、最近は思います。今まで、起業家や社会課題に立ち向かっている方々を見てきましたが「今は僕も社会課題に立ち向かう立ち位置に来たのかな」と感じています。

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