地域で活躍する多様な起業家を特集するこの企画。福島県から発信したいイケてる起業家は、(株)髪研代表取締役の鈴木和敏さんです。福島一、料金が高い美容室として有名なカミケンの創業者である鈴木さん。福島県内で8店舗の経営をし、現在はサロンワークを離れて美容室向けの経営コンサルタントとしてご活躍されています。昨年にはご自身の経営ノウハウが詰まった「脱・職人経営」をご出版されました。
1億稼げる起業家を増やしたいと語る鈴木さん。時間、利益、働き方。地方ビジネスにマッチしたその戦略は、美容室にとどまらずあらゆるビジネスシーンで応用可能なものでした。
美容師を目指したきっかけは
もともと単純に起業したいなって気持ちがあったんです。高校生の時には将来は起業しようって決めていました。僕の父親が銀行員で、転勤族だったんですよ。学生時代は中学校を3つくらい渡り歩いてましたなので、会社員は会社の都合で振り回されるっていうイメージがありました。それが嫌だった僕はとりあえず自営業をやりたいなって考えました。当時の僕は手先の器用さだけには自信がありました。学校の図工の成績の評価がいつも5だったんです。そんな手の器用さを活かして美容師か建築士になりたいなと考えたんですが、美容師を選んだ理由は他にも3つあります。1つ目は当時カリスマ美容師ブームだったこと。2つ目は美容師だったら若くして独立出来そうだと思ったこと。最後の理由はカリスマ美容師ってなんか女の子にモテそうじゃないですか。(笑)これは美容師になるしかないって決めました。
ノリで出店した3店舗
美容師になって初めて就職したのは東京の美容室でした。でも僕、すぐに挫折してしまったんです。とにかく労働条件が悪すぎて。朝は先輩よりも早く出勤して練習、帰りは終電みたいな毎日で、休みもほとんどなかったです。それなのに給料がとにかく安い。そのうえ先輩を見ていると5年目なのにまだスタイリストデビューしていなかったりして。下積み時代を5年もやらなきゃいけないのかと思ったら耐えられなくなって、結局地元の福島に戻ることにしました。
福島に戻って地元の美容室で3年くらい働いたら、なんとかスタイリストになることが出来ました。美容師は技術職ですから、スタイリストになってからはもう一生勉強なんです。そしたら少しでも早く店持ったほうがいいよねって、カミケン1号店をオープンさせました。僕が25歳の時でした。
3店舗まで拡大したきっかけは
はじめは一人でやっていてそれなりに楽しかったんですけど、考えていたより儲からなかったんです。忙しい割には儲からなくて、この忙しいのが50歳60歳まで続くって考えると厳しいなって。じゃあお店増やせば儲かるんじゃないかなって、起業からわずか6年で2号店3号店を出しました。ノリで3店舗目まで出しちゃったわけです。
経営者としての働き方を本気で考えるきっかけをくれた3つの出来事
現在の8店舗に拡大するまでの状況は
2011年、東日本大震災が起きました。スタッフやお店は無事だったものの、3週間もの間、電気・ガス・水道が止まってしまって営業が出来なくなりました。実質1か月くらい売上がない状況になって、その月の給料の支払いが難しくなってしまったんです。結局、事業者貸付でなんとか支払えましたがもう一度この状況になったらと考えると乗り切る自信はありませんでした。それまでの僕はちゃんと経営を考えずにお店をやってたんです。ただお客さんを安くかわいくしてれば儲かるかなってノリでやっちゃってたんです。でも、このままではいけないと強く思うようになりました。さらに、僕自身が結婚をひかえていたことや、手荒れがひどく、ドクターストップがかかっていたということもあって、そこから本気で経営を学んでいったんです。
職人経営から脱職人経営へ

経営を学んでからの変化は
まずは、サロンワークを減らして経営の勉強をすることにしました。脱職人経営の第一歩です。最初は不安の方が大きかったのも事実です。毎日のようにつぶれるつぶれるって弱音を吐いては、スタッフに慰められることもしばしばでした。けれど、僕が現場に立つことを減らして経営を学んでいけばいくほど、経営状態がどんどん良くなったんです。
客単価も上がって効率がよくなっていって。店もポンポン増やすことが出来て、現在では福島県内に8店舗まで広げることができました。僕が職人経営をやめた結果、会社の年商や利益が右肩上がりになって。高待遇の労働環境を実現できて、スタッフが定着するようになりました。僕自身も重要な業務だけにフォーカスできるようになって、家族と過ごす時間も確保できるようになりました。仕事とプライベートが充実している、理想的としていた生活も手にすることができました。そんな経験をベースに書いた本が、昨年出版した「脱・職人経営」です。

ライバル不在のポジションをとれ
地方で成功した秘訣は
僕が経営をあまり考えずにノリで出した店がやっていけた理由は、ライバルがいないポジションを狙ったからです。当時、深夜営業と個室での個別対応を売りにしてやってたんですよ。提供するサービスは同じでも、時間軸をずらしたことで集客がうまくいきました。アイデアひとつでマーケットは変えられるんです。

地元福島で起業を決めたのも、土地勘のない他の場所で起業するより圧倒的に有利だと感じたからです。地域の人間性や空気感を理解してるし、繋がりもあるからやっぱりやりやすかったです。あとはなんといっても福島っていい人が多いから、福島で起業して本当によかったです。そういう意味では地元で起業するっておすすめですよね。生まれ育ったところでやったほうが有利だと思います。
自分が10億円稼ぐよりも、1億円稼げる経営者を10人育てたい
現在の仕事について
脱職人経営をした僕は、いつしかサロンワーカーとしての時間と経営者としての時間が逆転。完全にハサミを置いて、サロンワークを卒業したのは3年前のことでした。
現在の僕の仕事は、経営とコンサル業です。美容室経営者向けにコンサルをしています。美容師業界は全体的に待遇が悪いんで、美容師さんたちが働きやすい待遇のいい会社を増やしたいんです。

コンサルをはじめたのは、僕自身が店舗を増やすよりも、そういう経営者を増やしたほうがたくさんの人を幸せにできるから。例えば僕の会社が10億の売上を出すよりも、1億円事業の仲間が10人いたほうが幸せになれると思うんです。今のところコンサルさせていただいて年商1億を達成できた会社は13社で、勝手にコミュニティまで作っちゃいました。「脱職人マスタークラブ」っていうんですけど。1億稼げる仲間を100社まで増やすことが目標です。
コンサルをやって3年になりますが、「鈴木さんに会って人生が変わりました」とか、「脱・職人経営の本を読んで人生変わりました」って言ってもらえるとやっぱり嬉しいですね。こんな田舎者の美容室経営者だけど、都会の経営者の方が相談に来てくれたりするんです。しかもそれが僕がかつてあこがれていた元カリスマ美容師だったりして。この構図は素直にうれしいですね。とてもやりがいがあります。

働く時間を減らして利益を最大化する
経営者として大切にしていることは
僕は、現場で働く時間を減らして利益を上げる美容室経営を目指しています。それは利益を出すことがビジネスの目的ではなく、自分が本当にやりたいことを実現することが真の目的だと考えているからです。大切なのは人生をどういうふうに歩みたいかということ。利益を出すことはただの手段であって、目的ではないのです。僕の場合、家族との時間や自分の時間が何より大切で、これを他人に左右されたくないんです。でも、それにはお金と時間に余裕が必要なんですよね。
そのために徹底的に行っていることはプライオリティセッティングです。優先順位をとにかく明確にすることを意識しています。例えば、僕が来年のスケジュールを作るとしたら、まずは家族の旅行や嫁さんの誕生日、子供の誕生日、結婚記念日なんかを必ず休みにします。そのあとに仕事のスケジュールを入れるというわけです。
シャンパンタワー理論
家族を一番に考える働き方
家庭をもったときから、何よりも大切にしてきたのは家族との時間でした。

結婚しても結局は赤の他人同士だから、嫁さんのことは一番大切にしないといけないなって思うんです。親子であれば無償の愛でおのずと繋がってると思うんですが、配偶者はそうはいかない。僕の考えでは、大切にしないといけない人の順番は、まずは自分、その次が配偶者、そして子供、親、スタッフや一緒に働く仲間、その次にお客さん、そのあとが地域社会、国家って感じなんです。そういう順番で近い人を幸せにすればするほど、ビジネスって絶対にうまくいくと思っていて。シャンパンタワーみたいに、一番近い人のコップに幸せをあふれるくらい注げば、その下の人にも届いてどんどん広がっていく。このことはスタッフにも常々話していて、一人一人が家族を大切にしてほしいと思っています。
カミケンのファン戦略
ひとりひとりを大切にするっていう考えは起業当初から変わっていません。うちだと施術中はお客さんを掛け持ちせず、個室でマンツーマンの個別対応ってスタイルをずっと続けています。それは人と人との繋がりを重視しているからです。これからは人口が減少していく時代なので、集客勝負のビジネスはどんな分野でも厳しくなっていくと思っています。
ひとりひとりを大切にする理由は、ひとりのお客さんに多くの価値を提供できればお金も多く支払ってくれるということを知っているから。「カミケン」はひとりのお客さんが一年間でいくら支払うかっていう年間支払額を基準にしています。数を増やすことではなく、ひとりのお客さんと深く付き合うこと。これは地域でのビジネスでは特に重要なことだと思います。
強気な値段設定で勝負するためには
まずはなんでもいいから高額なメニューを考えてみるといいと思います。例えば100万円とかのサービスを1人のお客さんが喜んで買ってくれるとしたら、どういうことが出来るか。高価格なサービスを想定して、その値段にみあうようにすることを追求していく。おのずといいアイディアが浮かんでくると思いますよ。
