【山形県で起業!】ローカルだから仲間が作れた。日本酒ベンチャーの挑戦

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地域で活躍する多様な起業家を特集するこの企画。山形県鶴岡市を拠点に、東京、パリでも醸造所を設立する日本酒ベンチャーWAKAZE。年々日本酒の消費量、酒蔵が減少を続ける中、ゼロから自社ブランドを立ち上げ、海外への展開を続ける風雲児です。伝統産業のなかでも特に参入障壁が厳しいと言われる日本酒業界で、いかに独自のポジションを掴むことができたのか。なぜ地方へ移転してから業績を伸ばすことができたのか。日本酒の常識をアップデートし続けるWAKAZE代表・稲川琢磨さんにお話を伺いました。

―まず早速ですが、起業した経緯を教えてください。

稲川)大学時代フランスに留学していたんですが、海外では日本の良いものが知られてないと思いました。悔しい思いもしたし、いいものづくりを世界に知らしめていくような事業をやりたいという思いを持ちました。ただ事業のネタが見つからなかったので、ひとまず修行できそうなところに行こうと思い、ボストンコンサルティングに入社しました。日本酒がいいかもと思ったのは、それから1年ほど経った時に、たまたま入ったお寿司屋さんで出会った面白い日本酒がきっかけです。その後様々な日本酒を開拓していくうちに、普通の日本酒ではなく、ちょっとハードコアで、酸が強いようなものにのめりこんでいき、こういうものを自分でも作ってみたいと思いました。

―思ってから自分で実際に作るまではハードルがあるように思いますが、そういったことは意識しなかったのでしょうか?

僕の生い立ちに関係するんですけれども、父がカメラの部品会社を営んでいるんです。祖父の代は高度経済成長で伸びていてよかったんですが、今はスマートフォンなどのカメラに代わるものが出てきて、日本のメーカーも軒並み生産力が落ち込んでいます。最終製品を作ってないものづくりってすごく苦しい。そういう背中を見ていて、自分は日本のものづくりをもっとグローバルに形にしていきたいと思いました。

―日本酒は伝統産業の中でも特に新規参入に厳しいイメージがあります。そうしたなかで意識したポイントはありますか?

今まで誰もやらないことをやったというのはあります。現在の日本酒産業は、海外輸出をしている蔵でもやっぱり95%は国内のマーケットを見ています。それは振り切れていないと思ったんですよね。そこに目をつけて、思いっきり振り切った商品を作ったらどうなんだろうと思いました。それで、とびぬけて酸が強くてワインのように楽しめる日本酒や、ワインの樽で寝かした日本酒を造りました。もう最初から、お猪口で飲むんではなく、ワイングラスで飲もうっていう振り切ったことをやったっていうのはありますね。2017年が186億円、2018年が222億円と、確実に日本酒の輸出額は伸びているし、うちの商品だったら、海外向けに振り切っているので、もっといけると思っていました。

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―グローバルを意識したなか、初期の販売で工夫した点はありますか?

最初からグローバルにいきたいと思っていたので、1年目のまだ売り出してもないタイミングで、まず香港に行って売り込みをかけたんです。突撃で3社くらいに電話してアポイントメントを取って、現地で取引先を決めて。飲食業界は、現地にインポーターがいて、その先にレストランや小売店がいるという構造なんですよね。取り扱ってくれる人がいても、レストランの買う人がいないといけないので、逆にレストランを先につけてしまおうと思いました。それで、香港では一番だと言われていたペニンシュラホテルのレストランに商品を入れていただくことを、インポーターの話と結びつけることで取引が決まりました。

それ以外にも、パリやアメリカなど、様々な国に行って、今も販路開拓をしています。1年目といったら、本当はそんなことにお金をかけてはいけないタイミングでしたが、僕は海外出張に20回行きました。普通はボリュームのために国内から販路開拓始めると思うんですよ、手早なので。逆に他の人がやらなさそうなことをやるというのはありますよね。

―WAKAZEさんは一度東京で起業してから、鶴岡に移転していますよね。そうした立場から見た東京と地方の違いはなんでしょうか?

一番難しいのは、東京だと「これをやろう」となかなか集中できないことですね。山形に来てから、定番になるオルビアって商品を開発したんですけれども、開発と酒蔵との関係づくりに没頭できたので、そこはすごくよかったです。鶴岡を拠点に選んだのは、たまたまというのが大きいです。鶴岡はスパイバーさんとか、慶応義塾大学の先端生命科学研究所があるじゃないですか。そこにツアーを組んでいくという機会があって、現地でいろんな人と話をして、すごく熱い人たちがこの周りに集まってきていると思いました。それが一つと、やっぱり食文化がすごく豊かで、米どころ、酒どころで、こんな良いところないなと思ったのがあります。

あと、地方はむしろサポートがしっかりしていますよね。東京だと競合も激しいし、特に食品領域は、あまり投資の集まらない領域なので、そういう意味ではやっぱり難しいです。鶴岡に来てから、初めてビジネスプランコンテストをやったんですけど、そこで優勝したりとか、クラウドファンディングを成功させたりする中で、注目されてメディアに出たり、小売店からも声がかかって結構な量も売れました。そうすると徐々に徐々に立ち上がってくるじゃないですか。都会の喧騒から離れて、立ち上がりの0→1のところを作るっていう意味では、食品領域のベンチャーにとって地方はすごくいい環境だと思います。

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―今パリでも醸造所を作っているそうですね。拠点が山形、東京、パリと3ヵ所にあるWAKAZEさんから見た地方の可能性とはなんでしょうか?

フランスに行っていて思うのは、彼らにとっては、別に東京で作っていてもそんなに面白くはないんですよね。フランスはすごく文化性が高い国なので、山形で作っていることを面白いと思ってくれているんじゃないかと思います。パリで今醸造所を立ち上げようとしているところは、人口1.7万人のまちなんですよ。パリの市内から歩いて約5分のところにある小さなまち。そこでやらせていただこうと準備しているんですが、パリとはカラーが全然違っているんです。いい人が多くて、温かくて、みんなお互いの顔知っているところに、鶴岡との親近感があったから迷いなくいけました。鶴岡を経験しているからこそ、「あ、ここっていいな」と思えた。

そういうまちでやることによって、行政との距離も近いし、市長も応援してくれています。いろんなまちの人たちが「ぜひやってください」、「私たちもどんどんSAKEを飲みたい」と言ってくれます。そういう意味で、地方や小さな町は仲間が作れるっていうところが良いところだと思います。それは鶴岡で学んだことでもあるし、遠いようで近いですね。

―そういった中で、海外発の醸造所との親交はあるんでしょうか?

そうですね、すごく仲良くしています。それぞれ熱い情熱を持った外国人がいるんですが、僕らとしてもすごい学びになります。彼らはすごく自由なので、日本酒にホップ入れたりしているんですよ。「なんじゃこりゃ!」と思うんですけど、それがちゃんと日本酒になっていて美味しいんです。

―そうした既存の日本酒に囚われない発想は、WAKAZEさんからも感じることができますよね。

ロンドンに行った時、クラフトジンを飲んで「あぁ、こんな美味しいものがあるんだ」と感銘を受けました。それで、日本酒の香り付けとしてボタニカルを使おうと思いついて、世界で初めてお米の発酵中にボタニカルを入れて絞るという試みをしました。自由な発想で、もっとやってもいいかなと思いますね。クラフトビールとかクラフトジンとか、そういった日本酒以外のお酒からインスピレーションを得て作ったものの方が、振れ幅が出て面白くなるので。日本酒という中で勝負しちゃうと、どうしても他と似通ってくる。全く違うことをやりたいなら、他のカテゴリから学ぶことは多いです。

今までのものづくりの在り方、特に日本酒業界は、先端を作るというよりはフォロワーが多かったと思います。2000Lタンクなどで大きく作ってしまうと、「売れなかったらどうしよう」と、市場に受け入れられやすいものを作ってしまいます。そうではなく、売れるかは分からないけど、潜在的なニーズとして売れるかもしれないアイデアをどんどん形にして、それを仮説としてぶつけて、上手くいったときに量産しようってステップを踏む方が合理的じゃないですか。

去年三軒茶屋に作った醸造所では、小振りな4つのタンクで毎月違うレシピの日本酒を仕込んでいるので、年間48個のレシピが生まれています。毎月新しいのが出てきた方がお客さんも楽しいじゃないですか。また、その場でマーケティングもできるので、あそこはある意味ラボのような場所なんですよね。そこでは高速回転でたくさん新しいレシピを作ることで、どんどんイノベーションが生まれて、その場でお客さんにぶつけて「あ、これ美味しい」とか「こういうのと合う」みたいに提案ができるのが面白いなと思うんです。

ちょうど先月新たな定番商品が出たんですが、それは三軒茶屋で生まれたレシピの一つなんです。山形での量産と、三軒茶屋でのラボとでうまくサイクルを回していくというか、そういう意味合いがようやく機能し始めたっていうのが今年ですね。

―では市場としては、日本酒の市場というよりはアルコール全体の市場を視野に入れているんでしょうか?

おっしゃる通り、アルコール市場全体のなかでイノベーションを起こしたいと思っています。世界のアルコール市場のなかで、日本酒のシェアは1%もありません。1%、ないしは数%を取りに行くってなかで、一社で取りに行くのは難しいし、その必要もありません。どちらかというと、マーケット全体としてそういうふうに持っていくって意味では、誰かがファーストペンギンとして飛び込んでうまくいかないといけない。だからWAKAZEがそういうベンチマークになれたらいいなとは思っています。

世界中で日本酒を醸していく、世界中で作り手が増える、その結果飲み手が増える、という環境を作っていくってことが今後にも繋がっていくと思っています。
また、海外発の醸造所が世界で勃興していくことによって、日本酒ではなく「SAKE」としてのレベルもぐっと上に上がり、幅も広がる。それをリードするのは日本人でありたいし、リーディングイノベーターでありたいっていうのはあります。

―最後に、今後の展望を聞かせてください。

日本酒業界をどうしたいっていうのももちろんあるんですけども、それ以上に、アルコール業界でのイノベーションを起こしたいと思っています。いろんな市場があるなかで、アルコール市場は、まだあまり開かれていない部分があります。もっと開かれたものにしたいですし、イノベーティブなビジネスモデルを作っていかないといけないなと思っています。これからはローカライズの時代です。各地域でニーズを汲み出し来て、上手くいったものは量産して、それをまた送り込んでいくようなモデル。これを、まずはパリでやろうと思っています。

僕らはパリも手始めだと思っています。そこで終わりだとは思っていません。アメリカも行きたいですし、ゆくゆくは世界展開をしていきたい。
そういったWAKAZEモデルのようなものを構築できたら、それはアルコール業界にとってもイノベーションだし、アルコール業界自体がもっとよくなるきっかけになるんじゃないかと思っています。グローバルでしっかり成功して、大きなものを持って帰ってくるということが、WAKAZEの会社としてのレベルを上げてくれた、鶴岡、山形への恩返しだと思っています。

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執筆者:北嶋 孝祐

協力 ローカルクリエイターラボ

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