事業承継との向き合い方③~成功する承継と成功しない承継〜鍵を握るたった一つの考え方~

INACOME

【事業承継は望まれているか】

事業承継は、経営者の年齢や病気などの理由で経営者としての業務執行や経営判断が危ぶまれる事態を見据えて検討に入ることがほとんどである。経営者(あるいは株主)は事業を将来にわたり存続させるために、次代の舵取りを担うにふさわしい人を選び、経営者としての資質と知識を習得させ、自社の経営資源を理解し、ステークホルダーとの信頼関係を醸成して経営をバトンタッチする。これが事業承継のオーソドックスな流れであるが、円滑な事業承継には5~10年を要する、と言われている。

こうした流れを踏まえてしっかりと準備期間が用意され、綿密に事業承継が行われる企業は実は少ない。そのタイミングは突然やってくるのである。往々にして事業承継が、何を承継するのかを突き詰めた「目的」ではなく、新経営者ありきの「手段」になってしまう。その結果、企業の意思統一が漫然化し業績の停滞を招くことも多い。事業承継はどうあるべきか?

望まれる承継

事業承継の場面での登場人物は、現経営者、後継候補者、株主、役員・従業員、ステークホルダー(取引先・金融機関・税理士等)となる。事業承継が“望まれる”とは、これら登場人物が皆、「後継候補者こそが新経営者に相応しい」と合意することである。(後継候補者も含めて)その合意形成には何が必要だろうか?

・現経営者・・・企業内におけるカリスマ性、将来を読み解く先見性、周囲の人物評価の適切性、人徳
・株主・・・経営者への支持、適切な助言
・後継候補者・・・現経営者への敬意、企業・役員従業員への献身性、リーダーシップ、誠実性・勤勉性、克己心、人徳
・役員・従業員・・・新経営者への理解と協力
・ステークホルダー・・・経営者交代への理解、承認、支援  等々

こうした環境を作り出すのは現経営者の役割である。経営者として企業の成長のための最適な戦略策定と実践を率先して行うことは当然であるが、同時に常に事業承継を想定した計画の策定と布石を打っておかなければ、企業は存続の危機を迎えることになる。それほど事業承継は経営者にとって重要な経営課題なのだ。

特に役員や従業員に事業承継のビジョンを前もって浸透させておく必要がある。企業の危機管理におけるBCP(事業継続計画)を作り、事業承継時のシミュレーションを常日頃からしておくと、社内で事業承継が受け入れられやすい。

経営者は後継者の選定を“人(=子供他親族)ありき”で行ってはならない。「事業の目的を達成出来る」ことから思考を積み上げて候補者を選定しなければならない。そうすることで、皆の共感・理解が得られる。そして最後は経営者の“人間力”で承継は成就する。

望まれない承継

一方で“望まれない承継”は、事業承継の登場人物にとって“不幸”な事業承継である。不幸感をもたらす要因の一例は以下の通り。

・現経営者・・・自らの経営理念が継承されない
・株主・・・事業不振から株価が下落
・後継候補者・・・社内協力者の不在 経営手腕が発揮できない
・役員・従業員・・・コミュニケーション不通 疑心暗鬼
・ステークホルダー・・・Win-Win関係の断絶

では、どうしてこのような事業承継が起こるのか?
1後継者候補ありき。資質や経営への情熱・覚悟は二の次
2後継候補者の経営への意識は高いが能力不足のまま見切り発車
3役員・従業員とのコミュニケーション不足
4経営理念の承継が不明確 登場人物のエゴが優先 等々

こうした不幸な事業承継の発生要因の背景にあるものは、経営者の事業承継に対する準備不足によるところが大きい。年齢的な面、事業進捗における現時点の自らの主導的ポジションなどから、「事業承継はまだまだ先の話」と考える経営者は極めて多い。しかし、企業の根幹を揺るがす「事業承継」のタイミングはいつやってくるか、誰にも・・・経営者自身にもわからない。その潜在的リスクに備えておくことは経営者にとって重要な責務である。

経営者の責務

企業は日々刻々と変化する。事業承継プランもこれに合わせて見直さなければならないが、定期的に検証・評価を行うことで、上記のような事業承継における諸リスクを洗い出し、対抗策を前もって講じることが出来る。

経営者は、様々な企業課題に対処するためのプランと、予見される仮説の洗出しと検証、そして素早いアクションを日々求められている。そのプロセスにおける用意周到さが経営者に必要な資質である。事業承継とて同じなのだ。自らの潮時を考えることに躊躇し、後回しにする経営者心情は理解出来るとしても、経営者の賞味期限は有効なのに対し、企業活動は永遠に続く。その現実を直視して、企業目的の遂行のために経営者は事業承継を常に意識しながら、経営の舵取りを行う必要がある。